senior high school Ⅱ
第23話 そしてまた、春
4月 彩未は2年生に、翔太は高等部に入学した。
冬を越えて、翔太の背はまたぐんと伸びて175㎝近くまでになっていた。近頃では心なしか声も一段と低くなり彩未をドキドキさせる。
こうなると、カワイイ翔太はすでに過去のよう。
始業式の帰り、部活は休みで彩未は乗り換えの駅で待ち合わせの約束をしていた。
「待った?」
「いや、さっき着いたとこ」
イヤホンを外し、そう言うと元々のすっきりとした物静かな雰囲気に合わせて、そこにこの日は加えてクールな印象を持たせ大人びて見せていた。
「彩未、聞く?」
「うん」
翔太の音楽プレーヤーのイヤホンを片方借りて、一緒に電車に乗る。同じ、高校生になった...。その事がなんだか嬉しい。
「やっぱり高校でもサッカー続けるよね?」
「ん、...するよ」
翔太は、努力家である。
父 真人が言うには早朝に近くの公園で朝から練習をしているのを小学生の頃から見かけているのだという。
少し日に焼けた肌と、それから少し青い白眼の対比がキレイで彩未は翔太を見た。
「なに?」
「ううん。翔太の白眼ってすこし青いね」
「そう?」
「うん」
洋楽とJ-POPと、ないまぜの音楽。彩未はなんとなくペラペラと喋れなくて側にいた。
「俺は、落ちたんだけどさ...」
唐突にそう言われ、彩未は一瞬戸惑った。
「え?」
「昔同じチームだったやつは、受かったんだってさ」
「サッカー?」
「うん。jリーグのユース」
何となく憂いがちなのはそのせいだったのか...。一人で待っている間もしかするとずっとその事を考えていたのかもしれない。
「最近...人づてに聞いた」
「そっか...」
サッカー少年が溢れている今、その道はとても厳しいのだろう。
颯の仲間にも上手い子はたくさんいたけれど、プロになれたというのは聞かないくらいだ。
「それは辛いね。悔しいよね」
「ん...」
電車の音が、音楽と共に奏でていてそんな音を聞くともなしに、静かになにかに耐えている、そんな翔太を見ていた。でも、彩未にはそんな翔太を慰める言葉も経験も持ち合わせていなかった。
上の空のまま、彩未のバカらしい話に相槌をうち、雰囲気のまま笑ったりしている翔太を気にしつつも、どんどんその一緒にいれる時間は短くなっていく。
マンションのエレベーターが上がって行く。
開けばその先は右と左へいつもなら、別れるところ。
「翔太、うちによっていかない?」
「え?」
「今日は、ママも仕事だしお兄ちゃんもバイトらしいから」
だから...。二人で過ごせる
「...でも、今日は...俺何て言うか、すこし普通じゃないから」
「だから、おいでよ」
翔太の瞳には戸惑いがある。
「一人でいちゃだめ」
ぐいっとつないだ手を、1217号室に向けて玄関を開けて連れ込んだ。
翔太の方は黙って、靴を脱いで彩未の部屋に入ってラグの上に座った。
彩未はキッチンでマグカップにカフェオレを淹れると、翔太の前に一つ置き、両手で挟んでそれを飲んだ。
翔太は出されたそれを一口飲むと
「あま...。でもうまい」
「でしょ?」
彩未は飲み終えると、テーブルを端っこに追いやって翔太の隣にぴったりと座りその頭を抱き寄せた。
「彩未...あたってる」
きゅっと抱き締めると、そう囁くように言ってきた。
「なにが?」
「...むね」
「触りたく、なる?」
「また彩未は、そういうことを言う」
「してみよっか?翔太」
「彩未…」
「今日は止めなくていいよ」
それが何を指すのか、翔太はきっとわかるはずだと。そう思う。
「…恥ずかしいんだよ?私だって...」
唇をすこし尖らせてみる。
「でも、年上なんだから私がリードしなきゃって...でも、本当は...翔太から、来てほしい」
「うん...」
鞄のポーチから出したのは、かつて春花の兄の冬悟からもらった大事なもの。
「これ...」
翔太にもその正体はわかったはずで...。
「...ほんとに俺でいい?」
「良いからゆってる。翔太は、やなの?」
「上手く出来なかったらとか、考えちゃって...正直ひびってる」
「も、ごちゃごちゃ言わないで...ハグして、キスしよ?」
小声で早口で言うと、ようやく笑みが見えた翔太が、彩未を膝の上に抱き寄せた。
「彩未...好き...」
「私も、好きだよ翔太」
彩未の両手で、その成長途中のその頬を挟んでキスをした。
歯止めのないそのキスはいつになく、濃厚で官能的で...そして、興味深くもあった。
この先にはどんな世界があるのかと...。
同じデザインの制服を着ている二人。ひとつずつお互いにボタンを外し合っていく。リボンとネクタイ、丸襟と角襟、スカートとズボン。クルーソックスとハイソックス。
長い髪と、短い髪。彩未は女で翔太は男。そんな二人は今、恋人同士で。
重なりあう唇と、合わさる掌と、触れあう肌と...。少しずつ、同じように熱が高まっていく。
吐息が耳を掠め、快楽によって細まった視界から覗くその顔は、きゅっと寄せられた眉の、そんな何かを堪えるような表情が色っぽい。
言葉を交わさなくても、お互いに確かめあえる事があるとすれば正にこの瞬間がその時だと思えた。キスを交わしながら、奔流に身を投じれば、そこにあるのはどこまでも、彼が好きだというその想い。
これまでたくさんの翔太への恋の花が蕾をつけてきていた。それが音を奏でるように咲いていく。
そんな風に感じて彩未は笑みを深くした。
「だい好き...」
彩未はもう一度、大切な言葉を言った。
「いまここにいる翔太が本当に大好きなの」
どんな時も、どんな彼も彩未はいつだって大好き。
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