第22話 真んなかバースディ

彩未の誕生日は3月3日、翔太の誕生日は2月3日。


だから、ちょうど真ん中辺りでお祝いをしようとそういう話になったのだった。

彩未も部活が忙しかったし、翔太も部活とそして所属するクラブチームの試合があったりと、やっとの隙間を見つけての久しぶりのデートだった。


彩未はビジューつきのライトグレーのニットに、膝丈ブラックのチュールスカート、タイツに編み上げのブーツ。それにホワイトのダッフルコートと、ベレー帽。

翔太は、ホワイトのシャツに、白とエンジっぽい糸でナチュラルテイストのカーディガンに、ブラウンのジップポケット付きのズボンとキャメルのハーフ丈のダッフルコートと黒のシューズだった。

この日はダッフルコートかぶりだった。


相変わらずアイテムかぶってしまう事にやはり笑えてしまう。


この日、デートの場所に選んだのは水族館だった。

移動はまたしても自転車と、そして渡し船を利用する。


久しぶりの水族館の大水槽を、ベンチに並んでゆったりと泳ぐ大型の海洋生物を見ながら

「翔太の誕生日から私の誕生日までの1ヶ月は、私たち同じ年だね」


「あ、そっか」

翔太も、なんだか嬉しそう。。

「うん。そう」


15歳。

なったばかりの翔太と、そしてもうすぐ次の歳になる彩未。

初デートとキスを経験した14歳、恋人になった15歳。


16歳は、どうなるのか

同じ高校生になるのが、とても待ち遠しい。


二人で出掛けている今、ごく当たり前に手を繋げるし、繋げば笑顔でいこうと先を促してくれる。

大好きな彼が側にいて当たり前のように好きだと表現できて、そしてそれを返してくれる。


日頃、隠さなくてはいけない二人にはとてもそれが嬉しくて楽しくて、言葉にしなくても同じ気持ちなんだと訳もなくそう思っていられた。


高校一年の彩未と、中学生の翔太と。

見た目はそれほど変わる訳じゃない。むしろ翔太の方が今は背が高くて、一緒にいることに違和感がある訳じゃない。


だけど、何となくこの一年の差は大きいのだ。

とても...。


「彩未?」

「うん」


外より寒くないのに、ぴったりとくっついて翔太を見上げた。

『彩未』と呼び捨てにされるとすこし照れくさい。


「もっと呼んで...?」

「...彩未」


少しだけ身を屈めてキスをされて、彩未はふふふっと微笑んだ。

肩にうりうりと頭を擦り付けた。


「なになに、なついてんの?」

「うん。マーキングしたいの」


そうすると、手が彩未の頭にポンと乗せられて、軽く撫でられそして翔太の方に軽く寄せられる。


「今日だけ、だから」

少し恥ずかしそうに染まるのはいつもの事。

「うん。誕生日は特別だよね」


だからこそ、貴重な一日なのだ。


幻想的なクラゲの水槽だとか、可愛いたくさんの種類のペンギンを見て、そしてなめこやサメに触れて、きゃいきゃいはしゃいで、それから水族館を後にした。


恋人になってからはじめて迎える誕生日。


水族館を出て、ショッピングモールへ移動して


「ね、何かお揃いの買わない?お互いの誕生日に」

「いいね」


アクセサリーはつけることは出来ないから、腕時計を選ぶ事にした。

ユニセックスなデザインのシンプルなアナログ時計は、翔太が黒で、彩未がブラウン。


ショッピングモールを出て、船着き場に行くまでの公園で、買ったばかりの腕時計を取り出してみた。

いつか、お揃いのアクセサリーを着けたいなとそう思いながら、お互いに 左の手首にそれを着けあった。


「コレなら制服でも着けていられるし、良いよね」


「そうだね」

ニコッと微笑まれて、彩未はドキドキしてギュッと腰に抱きついた。


「翔太、誕生日おめでとう」

「彩未も...もうすぐ誕生日おめでとう」


軽く触れあうキスをすると同時に笑いあった。


夕暮れ時は、寒くなってくるからぐるりとマフラーをしっかりと巻き付ける。船着き場に行くまで、自転車を押せばカラカラと車輪の音を聞きながら、かつて一緒に行ったテーマパークの帰りのように並んで歩けば、長く延びた影が二人の後を追いかけていた。




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