第28話 夢のかけら
「彩未、藍くんの参観いってくれない?」
夜ご飯を食べながらそんな事を言われて、正直な所戸惑ってしまう。
「ええっ?」
「明日、休みよね?」
「...おじさんは?」
「それが...。希和子さん出産が長引いてて、帝王切開になるそうなの。だから病院についておきたいって、藍くんを休ませるのも可哀想だし。それに、ママも希和子さんについておきたいし」
予定日超過して入院した希和子さんは、陣痛促進剤を使用して2日たったけれど、お産がなかなか進まないということだ。
出産はなかなか大変そうだ。
そんな事情を聞いては出来ることは協力しなくてはいけないなと思う。
「わかった...。私でいいの?」
「平気よ、幼稚園のは見てそれから一緒に帰るだけだから」
「はぁい」
しかし...。
彩未としては!!翔太と貴重なデートを過ごせるチャンスだった。それを泣く泣くキャンセルしなくてはならない。
『ゴメン、明日、藍の参観に行く事になったから』
翔太に、メッセージを送ると
『一緒に行こっか?終わるまで外で待ってる』
『えっ?ほんと?』
『藍と遊びたいし』
そっちか...。と少し残念になる。
『うそ、彩未のお姉ちゃんぶりを見たいから』
付き合い出してから、日に日に翔太の方が大人のように感じるのはなぜだろう。
『なにそれ~お兄ちゃんぶってる?』
『うそ、彩未といたいから』
(バカ!翔太のバカ)
『さいきん、なんかいじわるじゃない?』
『そうかな?』
『そうだよ』
『彩未と二人になれないからじゃないかな?』
(翔太って...こういう事言うんだっけ?)
『なれないから?』
『いじわるしちゃうんじゃない?』
『じゃあ、いぢわるしないように。会える方法考えないとね』
『まかして。そのかわり彩未も協力して』
『わかった、するよ~』
そんな感じで、翌日朝のバスに送るのも彩未がして
「藍、今日はお姉ちゃんが参観に行くからね」
「うん!」
送ってから、出掛ける準備をする。
服は保護者的なのはないから、クリーム色に青っぽい小さな花柄のワンピースにパープルグレーのロングカーディガンを合わせ靴は紐付きのエナメルで太めのヒールにした。
翔太と間に合わせをして、電車に乗り最寄り駅からは歩いて幼稚園へと向かう。初めてだったけど、地図アプリを見ながら向かえば同じ目的地らしい人たちが歩いているので、間に合ってる事に少し安心できた。
翔太の方は、グレーの薄いパーカーと、白のサマーニットにインナーの濃いめの紫が薄く透けている。ズボンはブラックデニムに、黒のスニーカーだった。
シンプルながらも姿がいいので、ちょっとカッコよく見える。
「じゃあ、そこの公園で待ってるから」
「うん、わかった」
翔太は近くのコンビニに入る前に、近くの公園を指差した。
彩未だけ入った幼稚園にはさすがに彩未のような若い保護者は当たり前だけどいない。
藍はすみれ組で、はじめて来た彩未はウロウロとしていると先生が
「何組を探してますか?」
とにこやかに尋ねてきてくれたので、彩未も素直にその先生に聞くことにした。
「あ、すみれ組です」
「藍くんのお姉さんですね!」
とそんな風で、藍の事情がわかってるらしい。保護者と子供が結び付いてるんだろうか...。凄い!
「右の園舎の2階になりますよ」
「ありがとうございます」
すみれ組着くと藍は
「あみちゃん!」
と直ぐに気づいて手を振ってくれた。
「藍くんのお姉さん?」
「あ、はい。従姉なんです」
そばのお母さんに言われこそっと返事をした。
「藍くんいよいよお兄ちゃんなのね?もう産まれた?」
「あ、そろそろみたいです」
「楽しみね」
穏やかに言うお母さんに、彩未もホッとした。
藍の事情をクラスのお母さんたちは知っているようで、彩未が来ていても全く問題無さそうだった。
みんな撮影をしてるので彩未もデジカメで写真を撮った。
この日は前もって作っていた絵のかいた紙皿を洗濯ばさみで立てて、段ボールで作った空気砲でどのチームがたくさん倒せるかというゲームをしていて藍もとても楽しそうにしていた。
何よりも先生もにこにこと楽しそうで、たくさんの子供を指導する先生に感心してしまった。
「はい!じゃあ一位は~みどりチーム!みんな拍手ー!」
何度かゲームをして、
「じゃあ帰りの用意をします、保護者の皆さまは外でお待ち下さい」
先生の元気な声が響いて、ぞろぞろと出るのに続いた。
「藍くんのお姉ちゃん」
「あ、はい」
「ごめんなさいね、呼び止めて。私は、今同じバス停からに乗せてる夕陽ゆうひの母です。藍くん、しばらくあのマンションで過ごしてるのよね?良かったらうちの子と遊ばせてね、お姉ちゃんもずっとだと大変でしょ?」
「あ、ありがとうございます。まだ何日かはいるので遊んでもらえると藍も喜ぶと思います」
「本当?よかった。夕陽も喜ぶと思う、じゃあまた明日、誘うわね」
にこにこと微笑まれて、大人の女性ってゆとりというかなんというか、温かみがあっていいなぁ、みんなやはりお母さんだからかな?なんて感激してしまう。
お母さんってやっぱりすごい。
着替えが終われば、彩未も記憶にある終わりの歌だ。
元気よく歌ってるのが可愛らしい。
(なんかいいなぁ...)
彩未はまだ子供みたいなものだけど、小さな子が一生懸命なのにジンとしてしまう。
「あみちゃーん」
「藍、上手だったねー」
「ほんとー?ぼく、じょーじゅだった?」
「うん。とっても」
藍と手を繋ぎ、幼稚園を出て公園にいけば翔太はテニスボールでリフティングをしていた。延々と出来るのではないかという正確さだ。
「あ、おにーちゃんだ」
「藍~おかえり」
飛び込んできた藍を抱き止めた翔太は、そのまま高く抱き上げた。楽しそうに笑い声を上げている。
「藍、お昼ごはんなにがいい?」
翔太はよしよしと撫でながら藍の希望を聞いている。
「おむらいす!」
「いいのかな?」
「メモには良いって書いてあったよ」
「じゃあ行こっか?」
幼稚園の近くにあったファミレスに着くと、藍はお子様のオムライスを頼み彩未と翔太は、おなじく大人のオムライスを頼んだ。
翔太がいてはしゃいでいる藍はきれいに食べ終えると、お子様セットについていた戦隊もののおもちゃで遊んでいる。
「今日、参観行ったでしょ?なんか幼稚園の先生って、にこにこしてて子供たちもお母さんたちもみーんなにこにこしてて、いいなって」
「幼稚園の先生か、目指したらいいんじゃない?」
「え?」
「彩未はピアノも弾けるし、踊るのも上手いし。小さい子も好きでしょ?」
「そうかな?」
「考えてみたら?」
「うん。そうだね、なんかいつも翔太には進路相談してる気がする」
彩未が言うと翔太は少し笑って
「そうかな?」
とだけ返事をした。
ファミレスを出て電車に乗れば、藍はうとうととしていて翔太は藍を抱っこして下ろした。
「藍疲れたのかな?」
「んー、俺も何となく覚えてるだけだけどさ...。弟が産まれて、ばあちゃんに預けられてた時って、ちゃんとしなきゃって小さいながらも緊張みたいなのあった気がする」
「そうなんだ。じゃあ藍も気をはってるのかも」
「うん、かも」
参観から帰り、少しすると秀人が帰って来て、
「あ、彩未ちゃん。ありがとう、無事に産まれたからこれから藍を連れていってくるよ」
「うん。わかった!叔父さんも希和子さんもおめでとう」
「ありがとう!」
疲れを滲ませながらも、嬉しそうに秀人は藍を連れて再び病院へと向かっていった。
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