第27話 小さなおきゃくさま
彩未が中間テストに突入した。
そんな時なのに長谷川家では従弟の藍(らん)をしばらく預かる事が決まった。
真人の弟 秀人(ひでと)の子供である藍はまだ5歳で可愛い盛りである。その藍を預かる事になったのは、秀人の奥さんの希和子さんが、出産で入院したからだ。
藍の通う幼稚園は幸いなことに彩未たちのマンションにも通う園児がいるので通園バスが停まる。それで、秀人と共にしばらくうちに泊まることになっていた。
「彩未、藍くんがいる間は協力してね」
「ん、わかった」
(えー。私に何をしろと...)
週に2回あるというお弁当は京香は希和子さんにメールをして細かく打ち合わせをしていた。
藍くんメモは冷蔵庫にビシッと貼られて、彩未もそれを目にしていた。
そして藍はやって来たのだ。さすがに幼稚園とはいえ、年長さんだからほとんどの事は自分で出来る。
突然生活圏に入ってくるとなかなか大変だなぁと思いつつも、藍は可愛い。
「あみちゃん、おしっこ」
「ん、おしっこね。一緒に行こっか」
しかしだ。小さな子がいればこんな風に勉強中も話しかけられる。
「あのね、ママ。私もテスト中なんだよ?」
「だから、早く帰ってきてるでしょ?お迎えお願いね~」
「えっ...」
最終日くらい、免除できない?
母が帰るまで、彩未が面倒を見ろと?
むぅ、と思いながらも翔太とイチャイチャしたいからなんて言えるわけもなく。藍の幼稚園バスのお迎えは彩未がすることになってしまった。
学校から帰って、バスの着く時間の前に時計をセットするとあっという間にアラームがなる。
やっと集中出来た所なのに、なんだ、と思いつつ
「あ、バス!」
と思い出す。
お迎えが遅れるとかわいそうだから、ただでさえママもいなくて心細い藍だから安心させてあげたい。
可愛いキャラクターのバスが、可愛い音楽を鳴らしながら停車すると、お迎えの保護者がそれぞれに子供を連れに向かう。
彩未は保護者証を見せて藍を迎える。
「藍くん、園ではおりこうさんでした」
バスから先生が降りてきて、にこやかに告げる。先生は若くて可愛らしい。
「はい、ありがとうございました」
「せんせーさようなら」
「らんくん、お姉ちゃんのお迎えよかったね」
「うん!」
元気よく言われると彩未も嬉しくなる。
「あのね~あみちゃん。らんね、おべんとうぜんぶたべられたよ?」
「そっか~えらいね」
小さい手を繋いでマンションに入ると、藍はエレベーターに向かって走り出す。
「藍~!ゆっくりしないとぶつかっちゃうよー」
といった瞬間に、ぶつかりそうになっている。
「あ、すみません!」
「あれ、彩未?」
その謝った相手は翔太だった。
手にはロビーにある、自動販売機で買ったらしいコーラがある。
「なに?弟出来たの?」
「違う違う。従弟」
「あ~、そっか」
「名前なんてゆーの?」
翔太はしゃがむと、目線を合わせて話しかけた。
「はせがわ らん。ごさい」
「藍か、かっこいい名前だね」
「うん!」
「藍はさ、車とか好き?お兄ちゃん家いっぱいあるんだけどさ後で遊びに来る?」
「えー!いきたぁい」
「よし、じゃあお着替えしたら、遊びにおいで。彩未お姉ちゃんの家の隣の隣だから」
とくしゃくしゃと撫でている。
「彩未もおいでよ。勉強もしないとだろ?二人で見たほうがらくじゃない?」
「ありがと翔太!」
「うん」
弟二人がいたせいか、翔太は扱いが慣れている。
藍も一瞬で翔太を気に入ったようだった。エレベーターに一緒に乗りながら、
「可愛いな」
ニコッと微笑む。
(いや、あなたもカワイイからね?)
藍の着替えをして、翔太の部屋にいくと箱を用意していた翔太は使い古されたミニカーをたくさん見せた。
「うわぁ、すごいいっぱいだぁ」
藍は目をキラキラさせている。
翔太の部屋でなくリビングに通されると、彩未はテーブルに座った。
翔太が淹れてくれた紅茶を飲みながら見ていると、ブロックで車庫を作ったりしながら、藍と遊んでいる。
藍は楽しそうにしていて、翔太も楽しんでいるように見えた。
おっきい子供とリアルな子供がじゃれあっててちらちらと見ながらだから、結局勉強にならない。
でも、藍のお陰で堂々と翔太と会えた事は良いことかもしれない。
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