第33話 夏、本ばん

厳しかった夏が終われば、いよいよ本番が待っている。

吹奏楽部は、地区大会を金賞で無事に突破しそして、地方大会へと進むことが出来た。


合宿の、隙間時間でみんながそれぞれ作ったお揃いのミサンガは『心』の意味をこめた赤と白でハートの形を編み込んだ。

練習を重ねたその後は、ただ心を込めて、気持ちを一つにする。ただそれだけになってくる。

その後家でこっそりと作った色違いの青と黒のミサンガは翔太へと贈って。


地方大会当日、また今年も全国に向けて強豪校が集まっている。金賞をとって、そして全国大会に向かうことは簡単ではない。強豪として知られている惶成の吹奏楽部もけっして安泰ではないのだ。


いよいよ、出番。

奈雪先輩が、ドラムメジャーとしてみんなを集める。ここで終わるのか続くのか...。みんなが緊張をしている。


「絶対に、行けるから。これまで頑張ってきたこと、ついてきてくれたことを私が知ってるから。どんなに厳しくって泣いたって、みんな逃げずに一生懸命やったよね?」

ニコッと奈雪先輩が微笑んだ。

「絶対に、できるよ!」

瑶佳先輩が続けて言い聞かせるように力強く言った。

3年生が引っ張って、下級生は頑張れる。

「こうせい~!!」

奈雪先輩と瑶佳先輩の号令に合わせてみんな集まる。

「ふぁい!」

「「「やーーーー!」」」

ステージとなるアリーナに入ると、全員が配置に着いた。

(笑顔で!)


奈雪先輩が中央にたち、見渡して笑顔を見せる。すっと手が上がり演奏が始まる。最後の最後まで、彩未もそして全員が気持ちよくやり遂げた。

そして...。

「惶成大学 高等部 金賞」


金賞をとれ、そして選ばれ無事に勝ち進めることが出来たらあとは全国が待っている!



そうして、サッカー部もインターハイが始まった。


その日吹奏楽部も、客席で応援をする。


去年は隣の客席で応援していた翔太は、今はピッチの中。

1年生なからも、センターバックにスタメン出場することになったのだ。昂牙が言っていたように、1年生から出ることは凄いことだ。そして昂牙はベンチで待っている。


恋人である翔太が出るとなれば、彩未の応援には自然と力がこもるというものだ。


ゲームは両チーム前半0点で、ハーフタイムとなった。

この時には吹奏楽部が、たっぷりと演奏を見せる。


テンポの良い曲で、客席を盛り上げる。大会ではないのでみんな心から演奏を楽しみながら、サッカー部を盛り上げる。


そして、後半戦。


相手が惶成ゴールを脅かしそうになり、それをセンターバックの翔太が、上手くカットしてカウンターを仕掛けて、そのプレイをきっかけに一点が決まった!

惶成サイドは多いに盛り上がり、その良い雰囲気のままもう一点が入り一回戦を勝ち上がる事が出来たのだ!


ピッチ上で喜ぶサッカー部のみんなをみて、同じ合宿という時を過ごした仲間だったから本当に吹奏楽部も喜んだ。



けれど、こんな時に大っぴらに喜びを分かち合えない何て、本当につくづく‘’男女交際禁止‘’の校則がうらめしい。



しかし、その日の夜。

『ちょっとだけ。出てこれない?』

翔太からRENが入っていた。


『うん、どこに行ったらいい?』

『公園でもいい?』

『わかった、もう少ししたらでる』


京香には

「ちょっとコンビニいってくる」

「あ、じゃあ、牛乳買ってきて。ちょうどなくなりそう」


「はぁい」


(口実だったのにな)


ワンピースとカーディガンにサンダルで公園に行けば、翔太が待っていた。


「大丈夫だった?」

「うん、コンビニって言ってきた。本当に買い物頼まれたけど」

「そっか、じゃあ先に買いに行こっか」


ぷらぷらと歩き出すと、翔太は左手を彩未の方へ向けて来た。すかさずにその手を握った。

「今日はさ、彩未と勝利を分かち合いたかった」

「うん。私もあそこまで降りたかった」


「ほんと?」

「うん」


いつになく、興奮してる雰囲気の翔太が久しぶりになんだか可愛かった。

試合に出れて、プレイで結果を出せて勝てたと言うことが嬉しいのだろう。


「次も、出れるといいね」

「だな」


指を、絡める恋人繋ぎ。

繋いだ手を、引かれるように少し後ろを歩けば少し自信のついた彼の、頼もしくなった背が視界に入る。


「翔太!」

「ん?」


振り向いた、その顔の唇をめがけてキスをする。


「おいわい」

「あのさ、俺もう中学生じゃないけど?」

「知ってる」


クスクスと笑うと

「見られたら、どうすんの」

「どうしよっか?」

「俺は男だけど、彩未は女の子なんだぞ」


真面目に言うのがおかしくてクスクス笑うと、


「こんなに暗くちゃ、誰だかわからないって」

「そう思う?」

「うん」


「そんな事言ったら、知らないよ」


大型滑り台の、影に入った翔太は向き直って、そして彩未を軽く抱き上げたかと思うと階段に立たせて、両手を握ってキスをしてきた。

彩未は軽く笑い声をあげると、体に手を回してそれに応じた。


ゆっくりと重なった唇が離れれば、小さな呟きが聞こえる。

「なんだろう、好きって。どっから生まれてくるんだろ」

「それ、知ってる。愛ってやつは、無限なんだよ」

彩未は答えた。

「だって、ずーっと増えていってるんだから」

「そっか...増えていってるんだ」

「うん」

コツンと額を軽くぶつけ合う。


「...コンビニ。いかなくちゃな」

「翔太、台無し」

吹き出して笑うと

「うるさい、照れ隠しだ」

少しやけくそぎみな言い方に彩未も少し照れ臭くて笑った。




「おそーい。どこまで買いに行ってたの?」

「ぼんやりしてたら、通りすぎちゃったの」

「あらあら。早くもボケちゃったの?」

「うん、ボケちゃったみたい~」


冷蔵庫に牛乳を入れて、彩未は部屋に戻った。

(ボケてるのは、ボケてるよね)

クスクスと一人で笑ってしまった。

ベッドにごろんと転がって、足をバタつかせる。

勝利は...いい。とても、とても、とても。

とても!


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