第2話 合コン

和奏わかなに知らされた合コンの場所は、繁華街にあるおしゃれな居酒屋の《橙果とうか》であった。

ひとつずつの席が個室になっていていかにも合コン向きに思えた。


「あ、きたきた」


店員に案内されると、和奏が小さく手を振っている。

和奏は白っぽいノーカラーのブラウスにグレーのジャケット、それにネイビーのスカートというきれい目OLスタイルだ。肩あたりで整えられた髪も似合っている。


個室に入れば、壁側にあるゆったりとしたソファの席に座っているのは男性が二人だけだ。二人ともスーツ姿で、それだけで仕事が出来そうに見える。


「あと、もう二人来るの。英乃はなのもまだだし」

そっか、と頷いて和奏の隣に座ると、その横に春花が座った。


ほとんど時間差なく、英乃がやって来て席に座れば、残る男性二人も入って来て、向かい側のソファに座る。


新しくやって来た男性たちも、きっちりとしたスーツスタイルだし、英乃も、かっちりとした上品なネイビーのワンピースを着ている。春花も美人だけど、英乃も美人で1つに纏めた髪はシンプルできれいだ。

一人ガーリーでユルいスタイルなのに何となく居心地が悪くなり、視線を手元のおしぼりに向けた。

普段仕事はジャージで、私服はガウチョパンツを愛用している彩未あみには何となく場違いに思えてしまった。ちらりと見れば同じ仕事なのに春花は持ち前の美形な容姿で、シンプルな服なのに格好いい。


個室につけられている和風の照明は黄色味があり暖かく見せて朧気な空気感を醸し出している。


「えー、じゃあまずは紹介するか」

男性側の一人がまずは話し出す


「俺は日下部 和樹、本条さんとは同じ会社です。本条さんの先輩になります」

和樹は、少し年上なのか大人の魅力が感じられる。髪型もきっちりと手入れの行き届いた、清潔感のある男性だった。少したれ目がちの目が印象的だ。

「日下部の同期で鈴木 直人です」

次の直人は、くっきりとした二重の目に整った鼻梁をしていてモテる印象がある。

「大学の友人で、三井 大地です。で、隣は…急遽、ピンチヒッターで連れてきた後輩の長瀬 翔太です。俺らは viearthヴィアースで働いてます 」

大地は、スーツでもすこしかっちりというよりはおしゃれな雰囲気で、顔立ちも柔和な印象だ。

そして...翔太、と呼ばれた一番端に座る彼をまじまじと見てしまった。

一重まぶたの、切れ長の瞳と左の目尻のほくろ、少し厚めの唇...。しっかりとその顔を確認すれば…彩未の知っている人物だった。


「...翔太」

その声に、反応したのはやはりその名の主である彼だ。

スーツを着ているし、よく見ていなかったせいで最初は気づかなかった。


「もしかして翔太って彩未の...」

この場で元カレと口走らなかった春花を褒めてやりたい。


「あ、幼馴染みです」

大地の問うような視線に説明したのは翔太の方だった。

彼の声は記憶にあるその声より低くて男っぽい。幼馴染みと言ったのは彼なりの合コンという席の配慮なのか。しかし、女性側はみな、翔太と彩未が付き合っていた事実を分かっている。


「へぇー、偶然だなぁ」

和樹がそう言い、


「じゃあその、幼馴染みの彼女から」

「長谷川 彩未です。あおぞら幼稚園で先生をしています。和奏とは高校の同級生です」

ペコんと頭を下げる。

「彩未と同じく先生をしてます。北原 春花です」

春花ははきはきと言った。

「和奏の中学時代の同級生で島崎 英乃です。はなぶさ銀行の窓口で働いてます」

「本条 和奏です。日下部さんの後輩です」

最後に和奏で、紹介は終わりである。


「じゃあ、紹介もすんだ所で乾杯にしようか」

和樹が言うと、ビールでの乾杯となる。


「春花ちゃんと彩未ちゃんは、同じ幼稚園ってこと?」

大地が目の前の春花に聞いている。

「そうなんです」

春花がにっこりと笑みを向けた。

「幼稚園の先生って大変そう」

直人が正面から話しかけてきた。


「3年目なので、だいぶ慣れました」

彩未はようやく視線をあげた。

「あれでしょ?話題のモンペとか、女同士のいざこざとか」

「うちの幼稚園は女同士のっていうのはあんまりないかな…。モンペ、までは行かないけどやっぱり難しい所はあるよね」

「それよりも、子供相手っていうのが大変だよな?」

和樹が言う。

「甥っ子を見たことがあるけど、30分で限界。あんなパワフルなのがいっぱいいるんでしょ?」

「確かに」

クスクスと春花が笑ってる。

「でも、可愛いですよー?」

「可愛いけど悪魔だよ悪魔」

和樹が言うと、

「確かにうちの姪もすごい。この間なんか電話してきて『ねぇなおちゃん。あんたもたいへんよねぇ』なにがって聞いたら『しごととかいえのこととかいろいろしないとでしょ』だってまだ2歳だよ」

と直人が言うと、どっと笑いが起こった。


「英乃ちゃんの銀行っていうのも大変な仕事だよね?いろんなひとが来るでしょ?」

直人がそう言うと、

「そうですね」

しっとりとした落ち着いた声の英乃は、彩未たちより凛とした雰囲気でお姉さんらしく見える。


視線の先の翔太は、一人後輩だからか大人しく相槌を打つくらいでほとんど話さない。

彩未はといえば、そんな翔太の事を気にしてちらちらと見ていた。まさか、こんな形で再会するなんて思っていなかった。


「…やっぱり気になる?」

こそっと春花が聞いてきた。

「ちょっとだけね」

こそこそと、そう返した。


飲み放題のメニューなので、みんなかなりお酒が進むし春花も和奏も英乃も飲める口なので、彩未もついつい注文してしまう。

次第に春花も和奏も、笑うことが多くなり、宴席は盛り上がっていく。

誰かが席を立つ度に少しずつ場所が入れ替わり、彩未がトイレに立って戻ってくると、英乃と和樹、それに和奏と直人が座り、春花と大地の隣に翔太が座っていて、彩未はその開けられていた翔太の隣に座った。

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