第17話 はつかれ

「あれ?友達は?」

「あー、行きたいところがあるとか、で。、、、」

「そっか彩未ちゃんは、どうする?俺はこれから頼まれた買い物して帰るけど」


「一緒に帰っていい?」


「うん、どうしたの?そんな事聞くなんて珍しい」

二人になったからか、翔太は久しぶりに手を彩未の方に出してくれた。


人が多いから繋いでくれるとはぐれないから安心できる。


「ちょっとデパ地下寄っていい?」

「デパ地下~?なんかリッチ!」

「買い物頼まれたから」


デパ地下には、和洋中の様々な美味しそうな料理がショーケースに、並んでる。

翔太は目的の豆腐料理を購入すると、お菓子のエリアに向かった。

「彩未ちゃん、どれがいいか選んで」

「私が、選ぶの~?」

「じいちゃんちに持ってくやつ」


彩未は悩んで、抹茶のラング・ド・シャを選んだ。

「これは美味しいよね、間違いない」


翔太はもう一件別の店に寄り、彩未も好きなシュガーラスクを買う。


「じゃあ、買い物も終わったし帰ろっか」

「うん」


駅に向かい、人混みのなかホームの列に並ぶ。


「そうだ、こんどサッカーの試合に応援に行くの。知ってる?」

「あ、俺らもいくよ」


「ブラバンの練習、すごいよな」

「あー、もう。みんなMだよ。どれだけいじめるのってくらい、やるから」


ぷっと翔太は吹き出した。

「ね、翔太は...さ」

「うん」

「えっと...えっと、ね」


(好きな人はいるのかなんて聞けないし!春花のバカ和奏のひとでなし!)


「ん?」

「あの、ミニスカートってどう思う?」


(あみのアホぅ...)


「...正直、すごい視界に入ってくる」

「人前で演奏するときってほとんどミニスカートみたいなんだよね、だからこんどもそう」

「そっか...」


「でも、やっぱり可愛いと思うよ。彩未ちゃんも似合うと思う」


「そう?良かった」

電車に乗り込んでからも、どう言うべきかで思考がおかしい。


「彩未ちゃん、駅に着いたけど?」


「あ...」


あわてて降りれば、降りた人はみんな一様に階段に向かっている。

その人波は二人だけを残して、みんな背を向けている。


(もしかすると...今がチャンス?)


「翔太...待って」

彩未は翔太の後ろ姿のシャツの裾を掴んだ。

「どうかした?忘れ物?」


「そう、忘れ物...」

「何忘れたどこに?」


「私...翔太に言うことがあるの」

「うん、なに?」


「光永先輩に言ったこと、本当にしちゃう?」

「彩未ちゃん?」

「翔太、私と付き合おうよ」


さりげない風に言ったけど、心臓はバクバクしてる。

「好き」


「大好き!」


反応がないから、もう一回大きく言った。

「翔太がす...」


突然動いた翔太は、突然視界を覆ったかと思えば、彩未を抱き締めていた。

バサンと落ちた紙袋の音が、駅の喧騒に吸い込まれる。


「本気、だよね?さっきの」

「うん。本気だよ...」


「彩未ちゃんは、俺の事なんてペットかなんかと一緒みたいなんだって、無理矢理そう思ってたよずっと」

「ペットって、そんな事思ってない」


「あー、ここ。明るすぎ...」

翔太の言うようにさすがにここで、このままハグを続けると向かい側のホームとか次の電車に乗る人の注目を浴びてしまう。


そっと身を離した翔太は紙袋を拾った。

「...割れたかも」

熱烈なハグの後のそんな、現実が笑える。


「付き合った記念にプリクラでも撮りにいこ!」

彩未は思い立って翔太の腕にきゅっと抱きついた。

「うん」


駅を出ると、すぐ近くに機械がある。

カーテンをピッチリと閉めて二人で中に入る。


最初は二人の片手ずつでハートを作った。2枚目はハグ。そして、3枚目は

「翔太...」


彩未はすこし背伸びして、翔太の唇にキスをした。


そうすると、翔太からもキスのお返しがあった...。

プリントと、スマホに移してみれば、そのラブラブな写真はものすごーく恥ずかしい。


「彩未ちゃんも、恥ずかしかったりするんだ」


「え?」


「ほっぺ ぴんくで可愛い」

「翔太だって、カッコカワイイよ」


半分に切って分ける。


「翔太はこれ、どうする?」

「...大事にしまっとく」


「しまわないで~、って大っぴらに出来ないもんね」


学校でもだし、家でも近すぎて付き合ってるのがばれちゃうのも恥ずかしい。

「学校には絶対に、駄目だからね」

高等部より中等部の方が規則は厳しめだという。進学前に翔太の評価を下げてしまっては一大事だ。

「うん!」


仲良くマンションまで帰れば、

「あ、これ。買い物付き合わせたお礼」

とエレベーターを降りたところでラスクの紙袋から1つを渡してきた。

「え?」

「みんなで食べて?」

「ありがと、これ好き」

「だろ?俺も」

ニコッと笑うのが可愛いし、気遣い方も好きだ!

(キュン×2 が止まらんの~!)

「じゃ」

翔太は家の方へ向かっていった。

もう一回最後にぎゅっとしたかったけど、我慢した。


彩未は自分の部屋の机に置いてある鍵付きのノートを手に取った。そこにプリクラを貼り、今日から恋人!と書いた。

鍵付きのノートは見た目に一目惚れしたけれどまだほとんど書けていない。


スマホが鳴り、見れば

『俺も、彩未ちゃん大好き!...言うの、忘れてた。ゴメン』


『もっと…聞きたい☆』


『ダメ!マジだから軽くは言えん』

『でも、聞きたいな』

『次に会った時に直接言いたい』


「うひゃ!」


(あー、照れる.ぅ..~)


彩未はベッドでバタバタとあばれた。


「彩未ちゃん~ご飯よ~」

「はぁーい」

あ、また現実がやって来た。

「肉じゃが!」

「ブー!」

「豚バラ大根でしたぁ~!残念」


「美味しそー!食べるぅ~」

若い彩未には胸キュンと、お腹は全くの別だった。

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