第36話 会えない時
春のインターハイ予選が始まると、翔太はほとんどの試合でスタメン出場を果たすことが出来たようで、彩未はひっそりとそれを応援していた。
そして、めきめきと活躍し始めたのは翔太だけでなくて、FWの昂牙だった。新2年生で目覚ましい活躍をしている二人を彩未は心から喜んでみていた。
彩未はといえば、新3年生。
いよいよ最終学年となり、和奏と晴臣を中心に顧問の川口先生と構成とそして練習メニューの打ち合わせや、一挙に慌ただしく、朝の通学さえ翔太とは一緒になかなかならない始末で...。
去年の年末の二人のようにならないように家では遠慮せずにバカなメッセージのやり取りはしていた。
『いっそがしいー』
と送れば
『こっちも、おそろし~くらい。忙しい』
『なかなか会えないね』
『うん。だけど、欲しがりません勝つまでは』
と送ってきて。
その言葉に思わず笑ってしまう。
(欲しがるって何)
『じゃあ頑張って勝ってきて!』
『行くよ、インターハイ』
『夏は、応援しに行くからね!絶対』
『やるよ』
短い一言に、何故か力強さを感じる。
『あみは受験勉強もだね』
『やらねば!』
『ぅしっ!きあいだ!』
『だね!』
そんなこんなで...。励まし合った。
親友の和奏といえば...
笑顔と、そして厳しい言葉を駆使して惶成吹奏楽部のドラムメジャーらしく、可愛い鬼になっていた。しかし、側にいる春花も彩未も他の3年生たちも、必死に悩みつつ和奏が率いようとしていることは理解していたから、サポートするべくみんな心を鬼にして、新1年生をしごく立場を受け入れた。
3年目の今年は、自分達が後輩達を引っ張って行かなくては行けない、そして最後の年で。
悔いのないように...。
悔いのない夏を迎えるために、全力を尽くす。
言葉を交わさなくても、口にはしなくても、通じ合うようなそんな気持ちでいた。
みんなが心は1つで、そして彩未たちだけでなくて、翔太たちもインターハイをかけての、過酷な戦いに身を置いてきた。
彩未たちも、彼らも一度の敗けで夏が終わってしまうのだから。
新1年生が入部して、去年はぐしぐしと泣きながら食らいついていた実夏も、やはり立派な先輩ぶりで彩未が鬼のように容赦なく指導している1年生のフォローを努めていて、
(やはりこうして受け継がれるのだなぁ)
なんて妙に大人ぶった事を思ってしまった。
「あみー」
和奏に呼ばれて行けば、3年生が集合してる。
「5分休憩」
とサックス隊に告げて、
晴臣と和奏を中心に集まる、そこに走っていった。
「演奏から仕上げたい。もちろん惶成らしくステップは大事だけど先ずはそこをきちんとしないと」
晴臣がしっかりと部長らしく言えば和奏が続けた。
「だね、歩幅もだからそれをまずは徹底しようか。今週仕上げて来週にはsingに入りたいね」
「来月のパレード。1年生はどうする?」
「入れるつもりで仕上げよう。そうでないと夏に物にならないよ」
春花が言うとみんなが同意する。
「演奏から。集合しよ」
和奏がそう言うと、3年生たちは各パートに指示を出しに走った。
「休憩終わり!演奏揃えるよ」
みんなが一斉に楽器をもって列になる。
揃ったのを見て、和奏が合図を出す。
「one two」
顧問の川口先生が側で聞いて、ストップさせては音を整えて行く。未経験の1年生にはとてもとても大変な事である。
練習を終えて、春花と和奏と共に帰路につく。
「和奏お疲れ様だね」
「まぁね...。連続金賞のプレッシャーはスゴいわ」
「だよね...」
ふぅ、と春花もため息をついた。
今年は春花と同じクラスとなり、希望大学も同じ聖林学院大学 初等教育学部である。
「でも、まさか二人とも幼稚園の先生希望なんてね」
和奏が言うと
「うちはお母さんが保母さんだから。やっぱり親の背を見ちゃうんだよ」
「ああ、そっか。大ベテランだよね」
「うん。凄いと思う」
春花が大きく頭をふる。
「彩未は?」
「従弟の藍を預かったでしょ?あのとき幼稚園に行って、良い仕事だなって思ったの。それに...翔太が良いんじゃないって言うから」
彩未の言葉に反応したのは和奏だった。
「なるほど...彩未、まだあの・・カレとちゃんと続いてたんだね」
「ん?」
「話さなくなったから、もうもしかしたらって」
「ん~。まぁあんまり、カレカノらしい事は出来ないけど...。終わってないよ」
「あの、彩未がねぇ...。すっかり慎み深くなって。障りの意味を聞いてきた人が」
確かに、そんな事があった。
「あー...。若気の至りって言うんだよね」
彩未は恥ずかしい自分の言動を思いだし、いたたまれなくなる。
「そういえば...アレはお役に立った?」
春花が聞いてきた。この流れの意味するところは
「想像におまかせで」
「ははぁん」
和奏がニヤリと彩未を意味ありげに見つめてきた。
「良い感じに育ってるもんね、カレ」
「彩未、真っ赤」
「やだ、もぅ」
彩未は二人からそっぽ向くと、春花と和奏はクスクスと笑った。
「あっつう...」
パタパタと彩未は手で顔を扇いだ。
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