第15話 カーラのネーミングセンス
「失礼しまーす。カーラです」
「おお?」
聞き覚えのある声と名前に、ガジュの微笑みははっきりとした笑みに変わりました。やってきたのはそう、ついさっき救護部隊入りを決意して教導員ガジュの元を卒業していった、あのゴールデンレトリバーのカーラではありませんか。
「よくきたわね。入ってちょうだい」
獣天使長の暖かい声に、扉を開けて金色のかたまりが滑り込んできたように見えました。フワフワした金色の頭から一本だけ跳ねている金髪もそのままの獣天使がは、まさしくカーラです。ただしさっきと違うのは、肩から大きな白いかばんをたすきがけにしていること。そこには赤い十字がプリントされていています。
「どうしたんだ? 救護部隊に入れたんだろう?」
ガジュがかばんに目を落として言えば、カーラは跳ねた金髪を派手に振り回しながら首を横に振って答えました。
「んー、わかんない。獣天使長さまに呼ばれたんだよー」
「そうなのよ。カーラも今回の作戦のメンバーだから、一緒に考えてくれるかしら? 戦隊モノなのだけれどね……」
作戦の概要を獣天使長がかいつまんで説明すると、カーラの茶色い目には理解の色が浮かんできます。
「で、セリアン・グレーってどうなのかしら、って話していたところなの。カーラ、あなたはどう思う?」
「うーん、ちょっとヤボったい感じがしますねー」
「ちょうどいいでしょ。いっつもボケっとしていて、たまに口を開けば突拍子もないことばかり言うんだから」
「そ、そうかなー?」キャシーの冷ややかな声に少し気後れしながらも、カーラは続けます。「あたしはガジュが戦っているところを近くで見てたけれど、もうちょっとキビキビしたイメージだったよー」
「そうねえ。彼はウチのエースだもの」
「ウム。強いゾ」
鈍い灰色に輝くプロテクターを身に纏ったガジュが、腰に手を当てて胸を張りました。翼を大きく広げて立つ姿は、なるほど、スーパーヒーローといっても悪くないかもしれません。
「アッシュはどうですかー? セリアン・アッシュ」
「アッシュ! まあ!」
小柄なおばあちゃんが、手をたたいて歓声を上げました。とても気に入ったようです。
「いいじゃない、セリアン・アッシュ。これでいきましょう。色だから、人数が増えても安心ね」
「そう……かもしれませんね」
ガジュのヒーロー名がちょっとだけ格好よくなってしまったので、キャシーは面白くなさそうです。努めて無表情になって、モンロー眼鏡を押し上げたりしています。それでももちろん、獣天使長の指示には素直に従いますよ。
「それじゃ、キャシー。ガジュにカーラとあなたとをリンクさせてちょうだい」
「かしこまりました。カーラと……」目にも止まらない速さでキーボードを打ち込んでいた手が止まり、目を見開かせて老婦人を見つめます。「ワタシも、ですか?」
「そうよ。二人にはガジュの補佐についてもらうって、言ったでしょう? カーラには負傷の面倒を見てもらうとして、あなたにはメカニックとブレーンになってもらわないとね」
「えーと……メンテでしたら獣天界へ戻ってきたときに致しますし、質問等あればアドベントベルでいくらでも……」
あくまでガジュと行動を共にしたくないキャシーは、必死で食い下がります。しかし、獣天使長の決定は覆りません。
「一緒に動いていれば、対応が素早くできるじゃない。ね? 仲良く仲良く」
獣天使長の柔和な笑顔には、誰も逆らえません。そのうえ手をたたいて励まされるのですから、降伏するほかないのです。
キャシーは仕方なく、自分の名前を打ち込んでエンターキーを押しました。
「それじゃあガジュ、頼んだわよ」
首もとのセリアンカラーをくるくる回して遊んでいたガジュは、「ん?」と言いながら笑顔で顔を上げました。ああ、これは……間違いなく、何もわかっていない顔ですね。
「エエト、何をすればいいんだ?」
「このフェレット! アナタのそのインスタントラーメンに入っている安っぽいカマボコみたいな耳には、一体何万匹の耳ダニがいるわけ? 獣天使長さまのおっしゃることを、何一つ聞いていなかったのね。栄誉ある毛玉戦隊に選ばれたんだから、地上に降りて、ワタシたちが今までできなかった直接的な方法で、人間から情報を聞き出すのよ。今、何が起こっているのか、起こりつつあるのか」
「おお! キャシーすごいナ、ワンブレスで言ったゾ」
サングラスをしているのに邪気のない、不思議な笑顔で褒め称えられ、キャシーはリアクションに困りました。でも、彼女はこういうときの対処法を心得ています。何といってもネコ族ですからね、都合の悪いことは無視してしまえばいいのです。
「さあ、二人とも行くわよ。グズグズしない!」
「ハーイ!」
「はーい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます