第11話 ウィーズル・ウォー・ダンス
「ヨシ。じゃあチョットだけ気合いを入れるか」
ガジュはそう言うと、軽くリズムを取りながら小さく足踏みをし始めました。一体、どうしようというのでしょう。そして、急に大きな声を出しました。
「せーの! 右! 右! 左! 右!」かけ声と共に、ガジュは体を横にしてジャンプしつつそれぞれの方向へ体をひねります。「くるっと回ってワン・ツー・ジャンプ!」
バレエのような見事なターンから、その場での足踏み、そして大きく跳躍……。状況が違えば、カーラは拍手してくれたかもしれません。けれども、今は敵に取り囲まれて絶体絶命というシチュエーションです。ガジュがおかしくなったとでも思ったのか、カーラは奇妙なダンスをする先輩獣天使をひきつった顔で見ていました。
「心配するナ。これで痛みは感じない」
それでもさすがに、左腕は使い物にならないのか、ガジュは右手だけこぶしを握り固め、腰を低く落とします。そこへ、残留思念が再び攻撃を仕掛けてきました。包囲網を狭め、真っ黒のボディからトゲを生やし──。
ところで、ダンスでテンションが上がったイタチ族というのは、怖い物知らずにさらに磨きがかかるのです。ガジュはトゲを避けようとはせず、みずから間合いを詰めました。そこは人型の胴体部分ではなく、それぞれがつながる腕部分です。むんずとつかみ上げ、下をくぐって簡単に包囲網を脱したではありませんか。
「オーイ! コッチだ」
そのまま、カーラに向かって指をチョイチョイとやります。後輩獣天使はもちろん金色のそよ風となって、「かごめかごめ」の鬼役を辞退しましたとも。
さあ、反撃開始です。
「おりゃぁー!」
腕をつかんだまま、右の残留思念に膝蹴りをお見舞いします。ちょうど後頭部にあたる位置へ、とても正確にヒットしました。
相変わらず「あ……あ……」というか細い声を出しているだけなのでリアクションは薄いものの、残留思念はたまらず前のめりに倒れました。すると、それに引きずられるようにして左右の残留思念が、次いで残りの一体がさらに引きずられて折り重なります。カーラを逃がさなかったときはあんなに腕が伸びたのに、おかしなものですね。
「ナンダナンダ、手応えないナー」
重なり合ってモゾモゾしながら「あ……あ……」というだけになった残留思念を踏んづけるようにして乗るガジュ。
「倒したのー?」
「ウム。そしてこれからが仕上げだ」
ガジュが背中の翼を大きく広げます。サングラスのせいで、翼がなければやたらハイテンション──少し落ち着きのない
そしてガジュは、小さく翼を羽ばたかせました。そこから足下の残留思念へ、銀色の小さな輝きが無数に降り注ぎました。
「それは、なにかなー?」
「エンジェル・ダストというものらしい」
「砂なのかなー?」
「わからん」そして口元をニヤリとさせて続けます。「フケやノミの死骸とかだったら、ヤだよナー!」
「汚いなー、もう」
下ネタならぬ、獣(ケモ)ネタをさりげなく挟みつつ、教導官ガジュは機動部隊の仕事をカーラに教えるのでした。
「黒い残留思念は、危険な悪しき存在とはいえ、もともとは人間の残した『思い』だ。今のやつらは報告と状況から見るに、火事で亡くなった四人家族の、『死にたくない』『苦しい』『助けて』という強烈な思いが残ったモノだろうナ。だから、エンジェル・ダストで浄化する」
「そういうものだったんだー、この黒い人たちって。でも、なんだかとっても強かったよねー?」
「ウム。死ぬ間際の思いが、一番強い。残留思念にも危険度のランクがあってナ、今のは下から数えて四番目だ」そう言ってから、緊張した面もちのカーラへ、いたずらっぽい笑みを向けます。「でも、このクラスが膝蹴り一発で倒せるとは思わなかったナ!」
そう……人間は、生きている限り残留思念を生産し続ける生き物です。その強さはまちまちで、能力に制限がかかっている地上勤務中の獣天使に吠えられただけで消えてしまうものから、八十人からなる聖歌隊と三日三晩死闘を繰り広げるものまであります。あるいはもしかすると、それ以上に強力なクラスも……。
そして、ごくごく一部の人間を除き、残留思念に対抗する術を持ちません。だからこうして獣天使たちが──物言わぬ友が、まさに人知れず、脅威を取り除いてくれているのです。何の見返りも求めることなく。死してなおも、無償で人間たちを守ってくれています。
「サテ、帰るとするか。腹も減ったコトだしナ!」
「それよりも、怪我の手当だよー!」
いくら謎の踊りで痛みが消えたからといって、血をだくだく流しながらマッタリしていていいはずがありません。ガジュとカーラは、それからすぐに獣天界へ戻りましたとさ。
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