第16話 ネコ、異星人だったことが判明

 「毛玉作戦」の中心はガジュのはずですが、今、先頭に立って早足で進むのはキャシーです。残りの二人は、まるで家来のように両脇に従います。

 目指すはお城の裏、砲術部隊の降臨砲です。飛び石を渡ったり、コケを踏んだりしながら階段を下ります。キャシーは、どうもそういったアトラクションが得意ではないらしく、なるべく普通の雲の床か、平らな石の足場を選んでいるようでした。そして、水たまりにガジュとカーラが飛び込んではしゃぎ始めると、モンロー眼鏡の中の目をつり上げて、烈火のごとく怒り出しました。


「バカなことしてる場合じゃないでしょ! もー、ほんとにイヌとイタチってダメね。そのセリアンカラーと」そしてカーラに向き直り、「そのゴキゲンなユニオンジャックのバンダナの裏にトゲを仕込んで、ひもをつけて引きずられたいの?」

「ナイナイ」

「あ、あたし、水遊びが好きでごめんなさい。もうしません……」


 カーラの脳裏に、散歩途中でよく会ったノラネコの姿が浮かびました。挨拶をしようと顔を近づけたとき、目にも止まらぬ速さで繰り出されたネコパンチを食らい、鼻から流血した経験がありました。それ以来、カーラはネコがちょっと苦手です。


 お行儀よく二列で、足並みまでそろえて歩いていると、前から再び、いくぶん柔らかくなった声がしました。


「そういえばガジュ、アナタ今回やけに早く地上勤務終えたそうね。ソウルマスターには会えたの?」

「唯ちゃん……。会えたヨ。でも、飼われ始めてスグ、火事になったみたいで、おれ焼死じゃなかった、窒息死した」

「ソウルマスター、まさか亡くなったの?」


 さすがに足を止めて振り返ったキャシーの表情は、眉根が寄せられて気遣わしげでした。


「それがナー。ああ、そういえばアドベントベルの担当って、キャシーだよネ? ちょっと聞いてくれヨー」


 ガジュはお尻のポッケから問題の端末を取り出しながら、待ち受け画面に表示されるはずの唯ちゃんが映らないこと、そして「圏外」と表示されること、さらに安否が不明であることを説明しました。

 キャシーの反応は、あり得ない、というものでした。


「ワタシたちネコ族がほかの星からやってきたことくらい、アナタたちも知っているでしょう。だから当然、地球上の誰よりも宇宙的な広い視野を持っているわけ。このソウルマスター見守り機能に関しても、完璧と言っていいはず。対象がどこにいようと……地下や太平洋のど真ん中なんてチャチなことは言わないでちょうだいね」しっかり釘を刺してから「地球のどこにいようと、見失うなんてあり得ないのよ。なぜなら、そう……太陽系全域をカバーしているんだから」


 余韻たっぷりに宣言し、肩をそびやかします。


 カーラが支給されたばかりのアドベントベルを取り出してみると、確かに彼女のソウルマスターであるひーちゃんが、夕ご飯のハンバーグを前にしている様子が映し出されていました。大好物のはずの献立を前にしても悲しげなソウルマスターを見て、カーラも胸が締めつけられるような気がしてきますが……とりあえず、この端末には異常がないようです。


 キャシーは難しい顔つきで、ガジュとカーラ、二匹のアドベントベルを見比べました。ガジュのほうは確かに、待ち受け画面が真っ暗で、そこに白い文字で素っ気なく「圏外」と書かれています。


「単純に考えて、ガジュ、アナタのソウルマスターは、太陽系の外にいるということになるわね」

「ナルホド!」

「ええっ? そこ、納得するところー?」

「イヌ族、やるわね。それが正しい反応よ」


 モンロー眼鏡でにやりと笑われても、カーラはちょっと怖いだけであまり嬉しくはありませんでした。でも、キャシーは構わず続けます。


「いいことガジュ。ここはね、『そんなバカな!』と仰け反るところよ」

「フム」

「今の人間が、太陽系の外に居てはおかしいの。自力で行けるはずがないから、おそらく、何らかの力が介入しているわね」

「それは、悪いヤツかな?」


 戦士めいた佇まいのガジュが、確認するようにゆっくりと尋ねました。キャシーは珍しく即答を避けましたが、一点に関してはきっぱりと頷きます。


「こんな拉致みたいなやり方をするのは、いい目的のためであるはずがないでしょう」

「じゃあおれは、どうすればいいかナ?」

「行くのよ、地上に。何が起こったのか、確かめるの。それからでなければ、動きようがないわ」

「ヨシ」


 ガジュが一歩前に踏み出して、三匹の隊列が変わります。毛玉戦隊セリアンズの栄えある第一号、セリアン・アッシュのガジュが先頭に立って歩き始め、補佐役のキャシーと、チームの専属救護隊員のカーラが続きました。


「みんな、地上に降臨するゾ!」

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