第38話 毛玉戦隊セリアンズ、降臨!

「愛の名の下に、毛玉戦隊セリアンズ! セリアン・アッシュ降臨!」

「来た! ねーちゃん、みんな、セリアン・アッシュが来たよ!」


 登場シーンのミスを温かくスルーし、最高のタイミングで登場したかのように感動してくれるのは、翔くんでした。隣の唯ちゃんをはじめ大人たちは、完全にリアクションの方向性を見失っています。

 満たされ始めた奇妙な空気を一掃したのは、歩いてやってきた白衣の美人さん、キャシーです。


「ワタシたちはみなさんを救出にやってきた、ヒーローユニットです。これからみなさんの肉体と魂を再結合して、地球にお返しします。指示に従ってください」それからセリアン・アッシュを前に追いやりながら「こちらへついてきてください」


 セリアン・アッシュは押されるままに歩き出します。きっと、マシンからの攻撃が予想されるのでしょうね。キャシーは、セリアン・アッシュの服の背中を引っ張って、右へ左へと誘導します。なにせ、順路どころか壁がどこにあるのかさえわからない身にはありがたい指示でした。


 そのとき、二〇メートルほど先でしょうか。例によって透明な床からガラス板状の物体が生えてくるのが見えました。セリアン・アッシュがキャシーと話しているのを見たガラス板とは少し違って、その一面に模様が描かれており、それが目まぐるしく変化しています。ちょっと興味深く見ていると、単なる模様が突然、意味を持つものになったのです。


「およ……わーにんぐ?」


 マヌケな声を発したのと、恐ろしい爆発音がしたのは、ほぼ同時でした。

 ガラス板から謎のエネルギー波が打ち出され、セリアン・アッシュの左肩を直撃。いとも簡単にプロテクターを吹き飛ばしました。


「マシンよ! 防いで!」

「マカセロ!」


 セリアン・アッシュは胸を張り、翼も広げてから一つこぶし同士を打ち合わせると、ひるんだ様子もなく軽やかなステップで前進します。まるでボクサーのような具合ですね。


「みんなー、伏せてー!」


 その間にカーラとキャシーが、後ろに続く人間たちを腹這いにさせました。


「ワタシは制御室に行って、ラボ鑑を切り離すわ。あとは任せても大丈夫よね?」

「まっかせナサイ。心を込めて暴れるゾ!」


 キャシーを見送り、向き直るより早く、マシンによる二発目の攻撃がセリアン・アッシュに迫ります。そのまま避けようともしない大きな的に、エネルギー波がヒット。左の翼から、血煙と羽毛が飛び散りました。後ろのほうでは悲鳴があがります。セリアン・アッシュは多少体勢を崩しましたが、すぐに持ち直し、残り七メートルの距離でジャンプ。ガラス板の上を飛び越え、着地と同時に腕のプロテクターを利用した裏拳をたたき込みました。


「硬っ!」


 ガラス板はびくともしません。そのまま素早く距離を取り、エネルギー波が再度自分を狙って放たれたことに安心します――胸部のプロテクターは破損しましたけれども。人間たちから引き離せれば、もう安心。あとはじっくり攻略あるのみです。


「直接攻撃が効かないなら、コレはどうだ!」


 セリアン・アッシュ、その場でトンとステップ。キャシーの追加機能のおかげで、床がわずかに振動します。間隔を変えつつ、ステップ、ステップ。どさくさに紛れて、得意のウォー・ダンス「痛くない踊り」を交えます。


「っしゃー、コレで痛くない!」


 いやいや、それでもマシンの攻撃を食らいまくっています。セリアン・アッシュが激しく動くため、クリーンヒットこそないものの、本人にはなから避けるつもりがないので、あちこちかすってしまうのですね。

 テンポを変えながらしばらくダンスを続けていると、アップテンポのあるとき、ガラス板が一瞬、わずかに傾きました。


「キタか! このリズムだな」


 かすり傷による血だらけのままニッコリ微笑み、今度は一定のリズムを正確に刻み始めるセリアン・アッシュ。マシンは不安定になっているらしく、エネルギー波があらぬ方向に向けて発射される頻度が上がってきました。そしてあるタイミングでひときわ高く跳躍し――


「微笑みキーック!」


 気の抜けるかけ声と共に、威力のほどは十分な跳び蹴りが炸裂。プロテクターの足先部分がマシンの中央をとらえ、鐘を衝くような良い音がしました。マシンはそのまま後ろに倒れ、健康上の問題が懸念される勢いで点滅していたワーニングの文字も消えてしまいます。


「うへへ。おれツヨイ!」


 キャシーは別行動中。カーラの引率で唯ちゃんたちもすでにいませんが、セリアン・アッシュは一応、キメポーズをとりました。


「セリアン・アッシュ、聞こえるわね?」

「おう、キャシー。首尾はドウダ?」


 どこにスピーカーがあるのやら、ちょっと低めで色っぽいキャシーの声が響きます。


「今、メイン艦とのリンクを解除したわ。これでマシンが無限に送り込まれてくる恐れはなくなったけど――」

「ケド?」


 モンロー眼鏡を押し上げたらしい音をマイクが拾い、スピーカーが忠実に再現します。そのためセリアン・アッシュには、すぐそばにキャシーがいるかのように感じられました。


「ラボ艦の全マシンがアナタの所へ転送されるわよ。その数二十七」

「お手頃な数だナ」

「だからカーラ。アナタは人間のみなさんを肉体の保存装置まで送り届けたら、戻ってセリアン・アッシュのサポートをお願い」


 そのとたん。速い速い。黄金の旋風が駆け抜けて、セリアン・アッシュへタックルでもするかのような勢いでつかみかかってきました。いよいよ、救護部隊員カーラの本領発揮です。


「うわーん、怪我が増えてるー」


 肩から下げた大きな救急袋に手を突っ込み、血止め薬「キレテナーイ」と復元薬「超回復RX」を取り出します。


「痛み止めもいるよねー?」

「いや、だいじぶ」

「おっけー」


 カーラは素早くセリアン・アッシュの背後に回り、まず流血の続く翼を、そして渋谷の交差点で銃撃された左腕も、一度包帯を解いて完治させます。


「アリガトー! じゃあカーラは、そこのところに見えない壁の出っ張りがあるから、隠れていてナ」

「えーっ。あたしもそばにいるよー。そのほうが、怪我したときすぐに直せるでしょー?」


 かなり……いや相当腰が引けている状態で、それでもカーラは覚悟を決めて言い放ちます。

 でも、セリアン・アッシュはアンテナが一本立ったフワフワの頭をなでながら、陽だまりにも似た笑顔で言いました。


「マシンがいっぱいコッチに向かって来てるんだヨ。金色ワンワンまで怪我すると、おれたちは一巻の終わりだからナ。もし怪我したら、おれがココまで戻ってくる。この安全地帯には絶対、マシンを近づけないから安心していいゾ」

「うーん……」


 怖いは怖いのですが、だからといって仲間一人に戦わせるというのは、チームワークを大切にするイヌ族としてはすぐに納得できかねる問題でした。けれども、今でさえビビってしまっている自分がそばにいては、ただの足手まといにしかならないことも十分理解できています。


「わかったよー。でも、もし向こうでヤバくなったら、助けを呼んでね。すぐに駆けつけるからねー!」

「ウム。頼りにしているゾ!」

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