幕間 スピカと料理
ディレクターズカット第二弾です。
二十二幕と二十三幕の間に挿入されるはずだった話です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
スピカは初めての経験に戸惑っていた。
まな板の上に乗った肉と野菜。ホシノにお腹いっぱい美味しいものを食べてもらうため、なるべく沢山の種類を揃えた。
研いだばかりの包丁を握り思案する。何から切れば良いものか。どう切れば良いのだろう。
人工皮膚から汗が湧く。感情センサーがスピカの焦りを探知して、人工皮膚に仕込まれた
全くいらないことをする。スピカは思い、苛立つ。お陰で包丁を持った手が滑りそうだ。
「情報では、包丁を使う際はネコの真似をするとあった。このデータは非常に参考になる」
スピカはポケットから、
そして両手をグーにして言う。
「完璧だ、にゃ」
右手包丁を握り、左手はネコの手。頭には猫耳。失敗する要素がないと思いながら、人参を生板の上に乗せて、包丁を振り下ろす。
かんっ!と気持ちの良い音が鳴った。
スピカは首を捻る。人参が真っ二つになっているのは予定通りだが、まな板までが切れているのは想定外だ。
新しいのもに取り替えて再度挑戦する。もしやさっきは力を入れすぎたのかもしれない。そう思い、今度はなるべく力を入れないように決めて、再び人参に切れ目を入れる。
すっ!と包丁が入る感触があり、スピカは手応えを感じた。
ヘタの部分を持って、人参を持ち上げる。びろーんという効果音が似合いそうな切り口で、皮一枚繋がった状態の人参が垂れ下がっていた。
何故だろう。どうしてこう上手くいかないのか?
機能不全ではないかとの疑いを、頭を振るって否定する。整備はさっきしたばかりだ。これは整備上の問題ではなく、性能の問題だ。答えに辿り着いて、肩を落とした。
「大丈夫だにゃん。まだ調理の面で挽回できるにゃ」
スピカは鍋を取り出す。素材の旨みをそのまま閉じ込めたほうがいいと思い、肉と野菜をそのまま鍋に入れる。決して切れないからではない。スピカは深く頷く。
「これで旨みが減る要素はないにゃ。完璧にゃん」
水を入れて煮立たせる。煮立ってきたら味付けに入る。ホシノの好みは分からない。圧倒的にデータが足りないのだ。
「こんなこともあろうかと用意してるにゃ」
スピカは様々な調味料を盆に乗せて鍋の前まで持ってくる。塩、砂糖、醤油、すっぽんエキス、ハバネロ、シナモン、蜂蜜、豆板醤、片栗粉等。計三十種類の調味料を全て鍋に放り込む。
後は煮立つの待つだけだ。そう思い、鍋の中をお玉でかき混ぜながら思い出す。
「呪文を忘れてた。これを唱えないと美味しくならないにゃ」
スピカは両手でハートマークを作り、胸の前に持ってくる。
「美味しくなーれ、美味しくなーれ。萌え萌えきゅん」
スピカは満足する。これで完璧なスープが出来上がったに違いない。ホシノもきっと喜んでくれるだろう。
お玉でスープを少し掬い、味見してみる。舌の上で豆板醤が
驚愕でスピカは手に持っていたお玉を落とす。
「破壊的不味さ」
スピカは口をでで抑え、腰を落として嘔吐いた。
料理は無理だと悟ったのは、用意した食材を全てゴミに変えた後だった。
不協和音の味がする汁物を作った後に、焼き物揚げ物蒸し物と粗方作ってみたが全て失敗した。
料理は一朝一夕で上手くなれるものではない。スピカは悟り、項垂れる。
ホシノを元気にしたい。その一心で、美味しい食事を作ろうと思ったが、この作戦は失敗に終わったようだ。
次の手を考えなくては。スピカは早速行動に移る。
ホシノを元気にするために、もう一つ作戦は考えている。一つが破綻しても、もう片方でカバーすればいい。
「完璧」
スピカはそう言って、調理室を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます