現実っていうやつ?痛(ツウ)
そして、生まれて初めて心から自分を認めることのできた私は、新しい会社で大活躍し、現在に至るのであった……
と、なればカッコいいんだけどなコンチクショー!
実際は違いました。平成21年5月。試用期間の1ヶ月が終わると、電話営業で1件も契約を取れなかったことを理由に、ブレインパーを解雇されたのでした。
あれっ、あの課題は何だったのかしら……
これが、現実っていうやつ?
解雇されたその足で、私は親戚のところに行き、雇ってくれと頼み込みました。
おぼれかけた人間がレスキューにしがみつくような頼り方でありました。その節は本当にありがとうございました。
その年の10月。
いっこうに仕事がデキない私に業を煮やした親戚は、もっと大きい会社でないと君を育てる余裕がないよ、という言葉と共に1月ぶんの給料を退職金として渡してくれました。病気と眠くなる薬のせいというよりも、ほとんど素で役立たずの私を、それでも親戚は5ヶ月面倒を見てくれました。
たとえそれが実質的にリストラであったとしても、本当に感謝です。
親戚がそこまでしてくれたのは、私への期待というより、親戚が東京に出るときに世話になった私の父への恩返しの為でした。私は親の遺したもののおかげで今を生きています。感謝……
そして11月。ブリッジ住宅(第39話参照)へと相談に出かけた私は、そこの奥さんに、ウッド社の社長さんを紹介してもらいます。社長はたまたまブリッジ住宅を訪れていたのでした。尻鳥さんは信頼できる人だ、というブリッジ住宅の社長の奥さんの推薦があって、私はウッド社に入社する運びになったのでした。
「捨てる神あらば拾う神あり」という諺そのものですね。
(すごい偶然だったよねー、ホントありがたかったよねー)
そして平成28年の今も、私はウッド社に正社員として勤めています。
あっさり書いていますが、当時は苦しくてたまりませんでした。
でも、私はなんとか耐えられました。
なぜなら、もちろん、ハニーがいてくれたから。
そして、前話の、駅のホームに立ちながら思ったこと。お世話になったあらゆる人たちを呪ったこと。それでもその悪い考えを振り払って、生まれて初めて自分を完全に許したこと。それは、本当に思ったことであり、その後も私を支えてくれたパワーでありました。
もちろん、
「現実」について、もう少し書きます。
ウツと気付かずに専門の医者に、それも予約もせずに行って、そこで初めてウツだと判る、なんてことが現実にある訳がありません。実際の私はウツになった疑いをずっと前から持っていました。
このぐらいの、実話を映画化したとき程度の改変はテキスト全般に渡って行っています。名詞を変えることはもちろん、形容詞を反対のものにしたり、エピソードの時系列を入れ替えて心情が理解しやすくもしています。
なお、登場した方々には実在のモデルがいますが、ご迷惑をおかけしないように適当なフェイクを混ぜています。
高卒の人間に東大卒の先輩がいるわけもないしね!
それでもマナー不足である、と感じる方がおられると思いますので、この場を借りて謝罪したいと思います。申し訳ありませんでした。
第1話でちらっと語った自治体が主催したディスカッションに参加したのは、親戚にお世話になっていた頃です。自分が経験したことをいつか文章にまとめたいと考えるキッカケになったイベントでした。
そのイベントの名前が「マイ・マリッジ」です。
転職に挑戦したときのデータ(このデータそのものは事実です)の中に、ある一社に短期で入ったとありますが、その会社は今も健在なので記載は省略しています。ここを辞めるかどうか迷っていたときのハニーの言葉を載せるだけにしておきます。
「あなたの後から入ってきた人を、あなたは騙す側になるのよ」
転職の体験は、失敗だけではなく、私に様々な気付きをもたらしました。
その中で、最も大きなものは、夜の街の見え方が変わってしまったことです。
会社で働くほとんどの人たちは、おかしなことに、自分の会社のありかたを常識と思っています。しかし実際は、会社の数だけ常識があって、たいていの人はそれに気付くことすらないのです。
夜の街で、立ち並ぶビルの窓の明かりは、面接で訪れた様々な会社のように、誰かが働いている証です。あの灯のもとに、自分のために、自分が大事にしている人のために、働く人たちがいる。そのひとつひとつに、彼らが信じる別々の常識がある。
似たような光に見えて、それは法則すら違う異世界。
都会の光はすべて、別世界の人がリアルに生きている遠い星の光なのです。
また、「現実」は、厳しい事実だけではなく、ときに救いとなる事実をも、もたらしてくれることがあります。
私はこのテキストの第一話において、「愛情をより長引かせる方法」を探し求めていることを書きました。そして先日、ついに、とある科学記事にて、その方法が実在することを私は知ることができたのです。
この記事の詳細はメディアによって違いますが、おおむね「科学が真実の愛を証明した」という意の題名がついています。
米国のストーニー・ブルック大学で、MRIスキャンを使ったある実験が行われました。20年以上連れ添った夫婦と、恋愛初期のカップルのそれぞれの脳をスキャンし、脳内物質の比較を行ったそうです。恋愛初期のカップルの脳には、俗に「恋愛ホルモン」とも呼ばれているドーパミン等の物質が生成されていたのですが、ごく少数の熟年カップルにも同様な脳内物質が生成されていたそうです。
この研究を推進したアーサー博士は、「まだ愛し合っている」という夫婦の証言を、何かのカン違いではないかと考えていたそうです。そしてそれはまた、従来の常識でもありました。しかし、スキャン結果はその見方を過去のものとし、それらの被験者の愛を裏付けるものになった、とのこと。
磨り減らない夫婦の愛情は、実在します。
もちろんそれが私たちの未来にあるとは限らないし、その詳細はいまだ不明です。私たちがそれを探し求める旅は、まだ終わりません。でも、少なくとも、小賢しい結婚否定論者がいかに
今の私たちは、ひとことで言うと、なんとかやっています。
私は少しずつウツから回復し、もう薬を止めていますが、最近、ストレス性の虚血性心疾患を発症しました。通院や投薬治療が必要なレベルではありませんが。ひょっとしたらそれは、3年前に父が亡くなり、同時に発生した主に相続にまつわる出来事のせいかも知れません。体重は減量とリバウンドを繰り返して現在84㎏です。
依然としてオタクですが、オタクとしての出費は月イチのマンガ喫茶ぐらいですね。
長年に渡って色々とお世話になった「先輩」と、その周りの「飲み仲間」には、恩知らずにももう何年も会っていません。旧友とはたまにメールとやりとりする程度。
「親戚」とは父の法事以外では会いません。これらの方々と疎遠になった原因は、すべて私の不徳の致すところであります。反省すれども後悔せずですが。
結婚したことで無くなった縁もありましたが、新たに得た縁も当然あります。
仕事は社長の理解もあって順調。このテキストを読んでもらっている同僚もいます。一級が頭につく難関資格も会社のお金でとらせていただきました。合格まで4年かけて吐くほど苦労したけど。母のご機嫌取りをする実家詣での為に木曜日には定時であがらせていただいていることも感謝です。
でもシャッチョさん。給料は、くれるというなら幾らでもカモーン!
ハニーは持病に加え大病をわずらいましたが、おかげさまで現在は回復しています。
ただ、もともと病弱なので(そう見えないので苦労してますが)、調子を悪くして寝込むことも珍しくありません。去年は2回救急車に乗りました。ずっと非正規で働いていましたが、最近正社員になりました。給料は……ええと、家から近いのがメリットの会社です。
ハニーの趣味は歌うことで、同好の士が集う会ではクラシックなどを気持ちよさそうに歌っています。先日、50歳になった記念CDを作って知り合いに配布しました。
曲目は「Climb Ev'ry Mountain(すべての山に登れ)」。彼女の生き方を表す素晴らしい出来です。
そして、ますます美しくなっています!
真の平等というのは横並びになることではなくて、必要に応じて主と従が入れ替わるものなのだ、という話を聞いたことがあります。私たちの関係もまたそうですね。
とりあえず今、元気なほうが、弱ってるほうを引っ張っていく。決してマウンティングをしないし、するのが嫌いなのですから。
夫婦はお互いの奴隷ではないのだから。
私たちはふたりともそれぞれ別に好きな趣味があって、自分だけの時間を確保していますが、それでも一番楽しく過ごせるのはやはりふたりで一緒のときです。特にバカやってるとき。
(踊ってるときとか)
ハニー、昨日はこれ書いてて夜更かしして悲しませたね。ゴメンね。
ダーリンを許してくれる?
(ゆるさなーい!一生かけてつぐなってもらうからー!)
つぐなうことばっかりで、ダーリンは何年生きればいいんだい?
(一日でいいから私より長生きして)
おっ、まさかの響子さん!
(誰よその女!)
知らないで言ってるのか。すごいな君は……
本当に君と結婚してよかった。
(私も貴方と結婚してよかったー)
ハニー、愛してる。
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