縁・オブ・ザ・ワールド

新たなるパワーとカナヅチの国

 泳げない人のことを、金槌カナヅチと呼びます。

 水に投げ込むと沈んでしまうからです。


 泳げないということは、水泳選手等でもない限り、その人の人間的価値とはまったく関係ありません。ましてや、蔑まれることではありません。泳げなくても成功した人、泳ぐこと以外の才能に満ち溢れている人は、この世に沢山います。


 某超有名マンガでも、泳げないキャラがいますよね! 海賊なのに。


 今から思うに、Zというのはカナヅチの国でした。

 私も含めて、泳げない人が多く集まる場所でした。


 ここで言う「泳げない」とは、もちろん、

「異性との表面的なコミュニケーション能力」のことです。

 カナヅチの国、そこに泳げる人を求めてはいけないのです。それ以外の才能や能力を探し求めなくてはいけないのです。


 畑で穴を掘ったなら、芋はとれても魚はとれませんよ!

 もっとも、食べてみれば芋のほうが気に入るかも知れませんが。


 とは言うものの、カナヅチの国こそ、さっそうと泳げる人が目立つのもまた事実。また、練習すれば泳げるようになる人もいるはずです。


 私は「泳げるふり」が、できるようになっていました。

 それは偽りの自分でした。


 コミュニケーション能力不全を標準装備しているのがオタクというものです。

 しかし、私は自営業のため、いやおうなく「営業用の顔」を持っていました。通り一遍の対応や、定番ジョークの披露ができたのはそのせいです。そして、何回かパーティに参加することで、私は新たなるパワーを感じるようになっていました。


 そう、いまこそ!

 始原なる力ヴェルジネ・アールマ電認作戦アタッコ・ランポは、既存なる「営業用の顔」とひとつになり!

お愛想仮面マスケラ・ディ・ソリーゾ」へと進化したのだ!


(はいはい、お薬飲まなくていいの?)


 さて、3回目、12月の小パーティでは、私は初めての行為を行いました。


(なんかヤラしくない?)


 今回のパーティ形式は、手っ取り早くカップル成立を目指すタイプのものでしたが、男性が順に席替えしていくところまでは同じでした。しかし、移動は前2回のようにグループ単位でなく一人ずつで、しかも数分ごとという忙しいものでした。

 私はめまぐるしさに息切れしてしまいました。なにせ自己紹介プラスその前後の席で話したネタと被らない会話(すぐ隣だから聞こえてるんですね)を繰り返すのです。


(私もこういうの一度行ったけど、合わないって思ったよー)


 もちろん、この形式のパーティだからこそパフォーマンスを発揮するタイプ人もいるはずですし、私も慣れれば違ったのかも知れません。


 全員のお見合いが終わったら、気に入った人の番号をメモに書いて提出します。

 そしてすぐに、全員に新しいメモが渡されます。渡されたメモには、自分の番号を書いてくれた人の番号が書かれています。当然、誰も自分を選んでくれなかったら白紙を渡されるのです。


 私のメモには、番号がひとつ書いてありました。

 すぐ、誰のことか判りました。会場に来るエレベータの中で、愛想よく会話を交わしたQさん(もちろん名前は判りません)です。


 あの人かあ……


 しばらく自由に席を替わって歓談、そして再びメモの提出です。

 ここでもし私がQさんの名前を書いたら、カップル成立となる可能性は高かったはずです。

 私は別の人の番号を書きました。Qさんに魅力を感じなかったからです。


 初めて自分を選んでくれた人を拒むなんて…… オレは何様なんだ。

 そう、Qさんこそ私を選んでくれた人を私のほうから拒んだ、Zで初めて振った人なのです。

 それはZでは当たり前の行為。誰でもすること。私も今までずっと、この会場においても、され続けていた行為です。

 なのに、なぜこんなにも罪悪感を持ってしまうのか。


 俺を断った女性たちの中にも、罪悪感を持った人はいるかもな……


 カップルは2組成立しました。他の人でした。

 こういう形式では、二次会とかに誘うのも気が引けます。

 身も心もグッタリと疲れて、私は思いました。


 ラーメンを食べて帰ろう……


 美味いラーメン屋を求めて、よたよたと初めて来た商店街を歩く私は、ふと、まったく別のものを見つけました。

 妙に雰囲気のいい神社です。


 婚活を始めてからというもの、来たことのない、そして良さげな神社を見つけると、私は必ずお参りしていました。お賽銭はいつも五円玉ごえん

 そして、


「私と結婚して幸せになる人と出会いたいです」


 と、心の中で呟いていました。

 しかし……今日の私は、そう神に願う資格があるでしょうか?

 今まで私がそう祈ってきたからこそ、Qさんが現れたのかも知れないのに?


 私は神社から顔をそむけると、再びラーメン屋を求めてさまようのでした。


 次回こそ、モテ期到来!?

 いやいや……



(ダーリン、今朝歯磨いた?)


 いま磨こうと思ってたのに言うんだもんなー

 ハニー、愛してる。

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