三万回の愛してる

 ジャーゴン、という言葉をご存知ですか。


 狭いコミュニティ内だけで通じる隠語・公的でない専門用語・省略語・符丁などを、少しカッコよく言ったものです。ジャーゴンは独自の雰囲気と仲間意識を作ると同時に、排他的な状況も作り出します。仲のいいカップルは、たいてい沢山のジャーゴンを持っている、という話を聞いたことがあります。


 私たちもまた、オズ、オバケが出た、マイナスイオン、レイコ、テント、トトロさん、シロママ、オペラ襟、カルメン、カトリーヌ、セレビー、等のジャーゴンにまみれた生活をしております。

 もっとも、カップルがもっと仲よくなる為だけなら、わざわざジャーゴンに頼らなくても最適な言葉があるのはご存知ですよね。


 それはもちろん、「愛してる」という言葉。


 このテキストを書く前に、私がハニーに向かって過去どのくらい「愛してる」と伝えたか、ざっと計算してみました。

 まず一日での回数は、私が起床のとき、ハニーが起床のとき、家を出るとき、昼のメール、帰宅したとき、何かヘマをしてゴマかすとき、乾杯のとき、ベッドに入ったとき、の8回。新婚初期や、休日ならそれ以上言っていることを考慮すると、少なく見積もっても、10年で約3万回以上伝えたことになります。


 我ながらスゲー!


 それでも日本男児か、不安だからそうしているんだろ、言葉の大安売りだな、黙っていても判り合えるのが本当の夫婦、等のご意見はあるかと思います。

 私がその言葉にこだわったのは、もちろんそれが真実であると同時に、ダーリン/ハニーと呼び合うことと同レベルでそう言いあう夫婦を理想としていたからです。

 加えて、何度も何度も「愛してる」と口に出していうことが、次の3つの理由から、とても必要だと考えていました。


 1. 言うほうも言われるほうも気持ちいい。

 2. 口に出して言うことで、その思いが強化される。

 3. きわめてコストパフォーマンスの高いリスク管理。


(アハハハハハハッ)


「だからね、こうやって言うことがとても大事なんだよ」

「まあ判るけど……」

「愛してる」

「そういうことかなあ……」


 一緒に暮らし始めて、最初の数週間のうちは、ハニーはこんなふうな懐疑的な態度でした。


(何というか、愛してるって言葉の意味が、私は違ったのよねー)


 しかし、もともと新婚さんというアドバンテージがあるので、根気よく繰り返すことで、やがて彼女も私の考えに共鳴してくれました。

 そして、普通に「愛してる」と返してくれるようになったのです。


 私たちの家ではこんな愛の言葉も含めて延々と会話ばかりしていますが、それが可能である理由のひとつに、アレがないことが挙げられます。たいていの家にあるはずのモノ、我が物顔で喋り続けるアレ。そう、テレビです。


 新居に様々な家具をそろえていくのは、とても楽しいものです。

 ご祝儀とZのお祝いクーポンを握り締めた私たちは、秋葉原、埼玉のショッピングモール、リサイクルショップを回って、家具をそろえましたが、その中にテレビは含まれていませんでした。


 ハニーはもともとテレビを持っていませんでした。親元を離れたときに余分なお金がなくて買わないまま、結局必要を感じないまま現在に至ったのです。

 また、私は近年のテレビ番組のありように、とても疑問を持つようになっていました。その理由は主に3つあります。


 1. 「面白い例」ばかり取りあげて「普通」を映さない


 婚活ヘンの「一発逆転シンドローム」の回にて触れた理由です。

 今では、報道バラエティに限らずすべての番組制作の姿勢に、「局に都合の悪いものを見せない・考えさせない」という性根が透けて見えるような気がしています。


 2. お笑い芸人が出すぎ


 特に、お笑い芸人が時事を論じるのがとても嫌なのです。

 笑えないコメントを芸と言われても反応に困るのです。

 そういう芸しかできない芸人だと同情しなきゃならないのもツラいです。

 あと、洋画の吹替えにディス感があるのも悲しいのです。


 もちろんこの意見は、TVに出てるときのお笑い芸人には芸に対する誇りがあるはずだ、という私の勝手な思い込みゆえにそう感じてしまうだけです。なので、「芸に誇りは持っていないけれど表現の自由たる人権なら持っている」と主張されるなら、私には謝罪する用意がありますよ!


 3. オタク向け番組の売り方がちょっとね。


 私がTVを見る理由は、半分以上がアニメと特撮番組のためでした。

 この頃から、特撮番組は本質的に過去作品のシリーズ焼き直し企画だけになり、またアニメにいたっては、「本編の続きもしくは完全版はDVDで」という売り方が当たり前になってきたのです。

 じゃあ、「今のTV」を見る意味って……


 なお、上記の「理由」はすべて、「個人的感想」ですからね!


 コホン。

 まあ、そんなワケで、新居への引越しを機にテレビを捨てることにしたのです。


 嫌なら見るな? ええ、もちろん、そうしました。


 現在、どうしてもTVが見たい(笑)ときは誰かの家で見せてもらいます。

 ちなみに、それぞれ親元に居たときのNHK支払い名義人はどちらも親でした。


 時々、「TVもないのに休みに何してるの?」と、人から聞かれることがあります。

 そういうときは、


「主にイチャイチャ?」


 と、答えています。


 さて、新生活においては、甘いことばかりではありません。

 次回はそのあたりのことを書きましょう。


(ベルギーチョコソフト、美味しかったね)


 また食べに行こうね。

 ハニー、愛してる。


 そして、うつと診断されるまで、あと2年と6ヶ月。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る