絶望した!
その日以来、Iさんとは会っていません。
ふらふらと帰ってきて、暗い自室で灯りもつけず座り込む。
そして、部屋の片隅から、現れる影……
「いまどんな気持ち? ねえ、いまどんな気持ち?」
「絶望した!
「何が
いざ青い鳥が現れたら、その羽をもごうとしたくせに!
鎖につないで、閉じ込めようとしたくせに!
Iさんの心が悲鳴をあげるまで、その痛みに気付かなかったくせに!
「いまどんな気持ち? ねえ、いまどんな気持ち?
絶対に奴隷はいらないと言ってたくせに、
いつのまにか奴隷を欲しがっていた
どんな気持ち?」
「きれいに別れたつもりだろうが、彼女は待っていたのかも知れないぞ?
好きだ、愛してる、だから飛び立っていかないで、と!
それなら一発逆転だって、あったかも知れないなあ?
でも、言えるはずもないよなあ?
「惜しかったなあ。
友達と親になんて言うつもりだ? 恥ずかしいなあ。
それとも親に当たるか?
なんで自営業なんてやってるんだ、そのせいでふられたぞ、ってな!」
バリバリバリ!
※ご注意 もちろん比喩的表現です。
胸の穴からこぼれ落ちる、キラキラと輝く私の武器と希望……
それを
「ふんっ、
いいトシこいてキモいこと言ってんじゃねえよ!
結果出せない人間が上から目線で語るんじゃねえよ!
そもそも
「結局、
結婚なんか望んじゃいけないんだよ!
世の中にはな、人並みの、普通の、ありふれた、ささやかな幸せなんて、
絶対望んじゃいけないヤツがいる。
それが
「クックー、クックー、クックー、クックー、クックー!
オタクだから
チビだから
デブだから
中年だから
長男だから
自営業だから
高卒だから
低年収だから
両親同居だから
「だから!だから!だから!だから!だから!だから!だから……!」
「だから……だから……」
ぶつぶつとそう呟く私の隣を、春が通り過ぎて行きました。
結局私と縁のなかった、人生の春、平成17年の春が……
自動的に再開された、Zからの書類が、ロクに目を通すこともないまま、机の上で重なっていきました。棺にかけられた土のように……
そして、若者たちが青春を謳歌する夏がやってきたとき……
とつぜん私は気付いたのです。
「だから」という言葉の、呪いと、祝福に。
次回、『「だから」という呪文』。お楽しみに。
(ダーリン、シャワー浴びたよー、お背中にシッカロール、
ぱたぱたプリーズ!)
ぱたぱたぱた……
君の背中は本当にきれいだね。
(ありがとダーリン)
ハニー、愛してる。
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