みじゅくものの ぶんざいで

 そして、時は流れる。


 平成20年の6月から転職活動開始。翌年3月までの10ヶ月間に活動。

 応募総計、512社。うち面接総計、57回。

 うち内定、4社。うち2社は内定辞退。うち1社に短期入社のち自主退職。

 うち1社に試用入社。


 これが、うつ診断直前までの挑戦の結果です。

 数を自慢してるのかって?

 前科何犯を脅しに使うチンピラじゃあるまいし、んな訳ないじゃないですか。

 失敗した数ですよ? 成功した数だったらともかく。


 公的、民的、無料、有料の支援手段とコネをすべて使い、「先輩」に紹介状を書いてもらい(その節はお世話になりました)、応募ノルマを定めて毎日毎日、転職に専念した結果がこれでした。リーマンショック最中、会社勤め未経験のアラフォーの挑戦とはいえ、まことに恥ずかしい限りです。「尻鳥様の益々のご発展をお祈りします」という結びの断り文句が多いこと多いこと。人生のうちで最も他人から「お祈り」された時期でした。


 俺は神様かっつーの!


 今振り返って考えると、やはり私は決定的に間違っていた点があると思います。

 ただし、面接に至った件数を考えると、意欲やスペック的に足りなかったとは思っていません。その程度のことなら履歴書と職務経歴書とさらに添付した自己紹介文で判るからです。


 従業員として雇うなら、私はあまりにも異質でした。


 サラリーマンというシステムに入って初めて判ったことですが、雇う側には、トシのいった人間は自分の仕事のやり方に固執しがちだ、という経験に裏打ちされた考えがあります。たとえ勤勉であることが判っていても。


 だから、従業員を求めている会社に応募するなら、御社の仕事のやり方を受け入れますよ、というアピールを第一にするべきでした。たとえば「御社に勤務する上で独自に勉強する必要があることを教えてください」と聞くとか、「残業はありますか」ではなくて「週に何時間働ける人間を求めていますか」と聞くべきでした。


 管理職として雇うなら、私は優しすぎました。


 優しい、というのは主観的評価ではなくて、面接の際に何度も受けた性格テストによる客観的指標によるものです。性格テストを偽るのはかなり難しいので、これはある程度信頼できる事実ではないかと思います。


 べ、別に他人ひとのことなんか何とも思ってないんだからね! ファッキュー!


 管理職を求める面接では、性格テストの結果を応募者に明かして、その結果を基に面接するときがあったので、私にはその結果が判ったのです。


 それなら、優しすぎると、なぜいけないのか。

 部下の側から見れば、上司は仕事ができて優しいほうがいい。理想の上司として挙げられるマンガのキャラや俳優のように。でも、上司の上司から見れば、冷徹な人間のほうが管理能力があるように見えます。そして、組織の中で働くことは、仕事ができるよりも、仕事ができるように見えることのほうが評価されがちだったのでした。


(そんなことも知らなかったの?)


 まあ、これらは後知恵で考えたことだし、真実はもっと別のところにあったのかも知れませんが。ズボンのチャックが開いていたとか。

 57回もかい!?


(自信がなかったように見えたんじゃないの?)


 そうだね。そうかも知れないね。特に後期のほうは。

 急にウツになる訳ないからね。


(私も辛かったよ。ダーリンが寂しそうで……)


 お金がなくなって辛かった、と言わない君が大好きさ。


 さて、こんなふうに、結婚とは関係なさそうな転職の話を書き綴ったのには訳があります。私が思うに、転職・就職活動(まとめて「就活」とします)と婚活は、とても似た所があるように見えるからです。このテキストの第2話において、私は婚活に必要な活動を3つ挙げました。


 1. 出会いを求める

 2. 自分を高める

 3. 意識を変える


 これはまさしく、就活に必要な行動そのものです。

 えっ? 就活はビジネスなので婚活に必要な「愛」は関係ないはずだ、って?


 今は愛がないけれど、スペックの高い人に出会えればきっと愛が生まれる、と信じている人はいます。やりたい仕事や夢を家族への愛より優先する人も、会社のために愛以上の献身を強いる経営者(日本の大企業とか)もいます。


 そういうかたを非難しているのではありません。

 ただ、テクニックとして変わらないのではないか、と言っているだけです。

 私の就活は、その点において劣っていた。ただそれだけのことです。


 平成21年3月16日。


 池袋にある会社、ブレインパーから内定の知らせが届きました。

 活動予定のギリギリでした。

 これ以上お祈りを食らうようだったら、恥を忍んで親戚の会社に頼るしかないと思っていた所だったのでした。

 ブレインパーは一度面接した後、何度も何度も広告の企画をつくる課題を出して、いいかげんもう止めにして欲しい、と思っていました。期待されている、という感じはあったのですが。

 なぜか風邪がいっこうに直らず、体調が最悪の中で企画を考えるのは本当に辛かったのだけど、よかった、と私は思いました。

 頑張ったかいがあった、と……


「決まってよかったね」

「じゃ、明日、さっそく病院に行ってくるよ」


 病院というのは普通の内科ではありません。一向に治らない風邪は、ひょっとした精神的なものかも知れない、と気付いたのでした。

 課題が続くせいでなかなか時間がとれなかったのですが、内定を貰った今、ようやく行く余裕ができました。

 決まったらこれ食べようね、と買っておいた冷凍食品のトンカツを揚げて、ハニーと一緒に食べました……


 ハニー、愛してる。

 そして明日、ウツの診断が下される。

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