Zよ!私は帰ってきた
運転席で人目もはばからず泣くデブのおじさんを、何ごとかと凝視しながらドライバーや歩行者が通り過ぎて行きました。
すっかり消え去ったと思っていた、胸の中にあった夢とそのチカラが甦るのを感じました。
希望の光とともに。
私は
婚活をしている大部分の女性は、何も持っていないどころか、マイナス点のみ山のように持っている私を単に「足りない」男性としか見ないでしょう。
けれども、私と結婚してくれる女性は、その「足りない」部分を好きなマニアかどうかはともかく(
私が、私そのものであるところの、足りまくっているエリートにない「結婚するべき点」を、ちゃんと見つけ出して結婚してくれるんだ……!
なんて、なんて素晴らしい人と私は結婚できるのだろう!
(きゃー、私そんなにすごい人だったの!?)
もちろんだよ、ハニー。
そんな素晴らしい人だからこそ、簡単に見つかるはずがない。
でも、それでも、私が、結婚できるという未来を信じている限り……
「
これが、あの有名だけども空虚で陳腐な決まり文句の、
私にとっての本当の意味だったのです。
そして私はさらに、ある大切なことに気付きました。
人によって結婚する理由は様々です。
それが人として当然だから。安らぎがほしいから。子供がほしいから。
家政婦。ATM。家族の介護。世間体。等々。
私は自分が何のために結婚するのか、よく分かっていませんでした。
なんとなく、してないと普通でないから、というネガな理由だったような気がしていましたが、こうやって
私が結婚したい理由は「さびしい」から、だったのでした。
私自身を見てくれる人を求めるというのは、結局そういうことなのです。
「親兄弟と仕事と趣味があるくせに、ぜいたくなヤツだ。人は誰でもさびしいんだ」と、思う人がいることは判っています。私自身もそう思います。
逆に、結婚したとしても、さびしくなくなる保証は何もありません。
そして、伴侶に「さびしくさせるな」と命じるのも勝手な話です。
(私はするけど~)
それでも「さびしい」と、思ってしまった。
だから結婚したい、と思ってしまった。
いいかげんな理屈だけど、仕方ありませんよね?
ねえハニー、君はなぜ結婚したいと思ったの?
(結婚してみたい、って思ったから。でも現状は想定外ねー)
想定外か…… 思い通りにいかないのが人生さ。
そして、もうひとつ。
私はこのとき、とある「呪縛」からも解放されたのでした。
その呪縛の元になったのは、上野千鶴子著「おひとりさまの老後」という本です。
このテキストの導入部にあった言葉が問題でした。
「誰でも、いつか『おひとりさま』になる」
これは真理です。
確かに、どれだけ上手くいっているカップルでも別れる可能性はあるし、寿命も違うはずです。非常に高い確率で、どちらかが、いつか「おひとりさま」になり、「おひとりさまの老後」を迎えるのです。
(そうならないようにするの!)
そうだね。
その「老後」のために、心身ともに準備をしておこう、それがその本のテーマでした。その主旨自体は、本当に納得できる優れたものです。現在の私たちもお互いを受取人にして保険をかけています。それしかない、と覚悟するなら、おひとりさまになっても独身時代と同じようにひとりで楽しむ生き方もできるでしょう。
いつか思い出に変わったとしても。
しかし、それまでの私は。
「誰でも、いつか『おひとりさま』になる」
という言葉から、私は……
「だから、結婚しても無駄なのだ」
失礼にも、勝手にそんな呪いを読み取ってしまったのです。
そんな「だから」は、その本には一言も書いてないのに!
いつのまにか私は、「だから」という呪文をいいかげんに使って、結婚の意義そのものを疑う、という、ひとり相撲をしていたのです。
どすこい!
このときまでの、独身時代の私の間違いは、「それは、どうせいつか終わりになることだから、それを行うことは無駄だから、やるべきではない、と決めつける」という、かわいそうな考え方をしてしまったことにあります。
※ご注意 そもそも、東大名誉教授であられる著者(プロフィール要検索)が、そんな呪いじみたステマを仕込まずにいられないほどかわいそうなヒトなどということは、決してありえません。
なんという、おそるべき呪い……!
(お馬鹿さんねー)
まったくだ。
ああ、そう、もちろん……
「どうせいつか人は必ず死ぬのだから、生きる事は無駄だから止める」という人は世の中に実在します。私自身もまた、いつかそういう考えを持つことがあるかも知れません……
なんと悲しい!
しかしですね、「どうせいつか腹ペコになるのだから、食べるのは無駄だから食べない」という理屈で、ご飯を食べない人はいないのです!
ダイエットならともかく。
(ダーリンは少し無駄だと思ったら?)
さて、それから数日して。
平成17年の夏。
私は新宿西口の大地に立っていました。腕を組み、足を広げて。
背中にはもちろん想像上のマントが風になびいています。
「Zよ!私は帰ってきた」
バッと広げた両手には……
右手は!
左手は!
そして胸には、光り輝くの夢の
「いまの俺は……無敵だ!!」
とおっ、と掛け声と共に、空高くジャンプ……じゃなくて、
歩いてZの支店のあるビルに向かったのでした。
(なんかヘンだよー!?)
※ご注意 このテキストは、おおむね事実です。賢明なる読者のかたには、これが演出とか心象風景のたぐいだと判りますよね?
私がZに赴いたのは、たまっているお相手写真を見るだけではありません。
いままでにないトライをしてみよう、そう思ったからです。
婚活の花形といえば、これ。
そう、パーティです!
Z主催の婚活パーティに参加申し込みをするために、やってきたのでした。
前にも少し書きましたが、Zのパーティには、それなりの費用がかかる年に数回の特別なイベントパーティと、あまり費用のかからない毎月のお茶会パーティがあります。その両方のタイプに参加してみよう、と考えたのでした。
仕事の都合とか、規模や行き易さなどを考慮して、とりあえず参加を決めたパーティは4回。
10月9日のワイン・パーティ、11月のホテルビッフェ・パーティ、12月と翌年1月のお茶会パーティ、以上です。
なお年が変わるまでは、いままでたまっていた紹介分を加えても、電話で話す段階以上に進んだお相手はいませんでした。
Z在籍中は、書類紹介のお相手について、もっとも打率が低い時期でした。
弱り目に祟り目、泣きっ面に蜂ってやつだね!
打率といえば、当時の某匿名掲示板では、Zから月3名分のお相手書類が送られてくることを野球の打席になぞらえて、
「残念ながら先月は三振、カーブに手を出しちゃった」
「今月はファール1本打ったぜ」
「2回空振りしたけどヒットで塁にでた! 得点につながるか?」
などという書き込みがあったのを覚えています。
ひょっとして、今でもそうなのかな……
そしてそのとき、パーティ直前に見た某匿名掲示板にて、重要な情報を私はゲットしたのでした。
「パーティは二次会のほうが大事だな」
二次会、だと……!?
さて次回は。
私が、捨てるべきだと思ってしまったものについて語りたいと思います。
果たして、犠牲なき勝利は、ありえないのか……!?
(ダーリン、ここに洗濯物入れちゃダメって、
いつもごめんね。
ハニー、愛してる。
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