タイム・イズ・マリッジ

 スピード婚、と言われるパターンが世の中にはあります。


 一般的には、プロポーズから半年ぐらいで結婚式まで行う場合のことを指すようですが、最近ではどんどん早くなる傾向にあるようです。相手のことをよく知らないうちに結婚するからすぐ別れるのか、というと統計的にそれは違うようです。

 長くつき合って結婚しても、早々と離婚するケースも多いし、熟年離婚もあります。


 たった1年で気持ちが離れてしまう人が沢山(第1話参照)いますから……


 ひと昔は結婚の準備だけで1年以上かかるのは当たり前でした。でも今は、結婚式場もキビシイ競争があるようで、柔軟な対応もしてくれるようになりました。気持ちに勢いのあるうちに結婚したいと思うのは誰もが同じのようです。


 私たちもまた、とにかく早く結婚したいと思っていました。

 結果的には、結婚式をしたのはその年、平成18年の7月吉日。結婚を決めてから6ヶ月ですから、スピード結婚ということになりますね。


 さて、尻鳥のことだから、それほど急いだ結婚式の準備はさぞかしトラブル続きだろう、とお思いのことでしょうが……


 びっくりするほど何もなかったんだな、これが。


(えー、あのことは?)


 それ、結婚の進行とは関係ないドジでしょ?

 他人事なら面白いけど書かないのは武士のナサケじゃ。


 もちろん、トラブルというか、障害になりやすい事情というか、それらを避けることができたのには理由があります。当時は深く考えなかったのですが、後から色々考えると、こうだったから何も起きなかったんだなあ、と判ったのでした。


 私たちは当然、「したいこと」や「したくないこと」がありました。

 しかし「したいけど、しないべきである」「したくないけど、するべきである」と思うことがほとんどありませんでした。加えて、それらの事柄に、ある程度は優先度をつけることができました。

 また、世間体の価値や自分たちの労力をお金に換算することができました。

 判りやすく言うと、カネで解決できることにはカネを出すってことです。


 出せるレベルなら。


 ふたりとも理性的な(相当頭が悪くなっていましたが)話し合いができたことも大きいですが、何と言っても最大の理由は、ムリだと思ったことはちゃんと「大人になる呪文」を唱えることができたからです。


(なにそれ?)



「ぼくと契約して魔法少女になってよ! 

 ステキな大人になる呪文を教えてあげるから!」

「すごーい! ホントに大人になれるの!?」

「もちろん! 千回こう唱えればいいのさ! 『しかたない』!」


(そんな魔法少女はいやーっ!)



 具体的な方向性としては、イベントの順序の正しさにこだわらないこととか、できるだけ義理を持ち込まないとか、他人へのエンターティメントや見栄が強い要素を省くなどの合理性を導入したのでした。


 そして結果として。


 それぞれの親にふたりで挨拶はするが、結納や親同士の顔あわせはなし。

 結婚式の準備のそれぞれの項目、入籍、新婚旅行、新居への引越しは、実行可能な順序でどんどん行う。

 ウェディングドレスは彼女が毎週末に私の家に来て、せっせと縫う。


(ウチじゃ狭かったからね~)


 教会風の結婚式と披露宴を、料理とアクセスのよい、品のある会場で行う。

 肩書きオンリーの人とか仕事関係の人は呼ばず、招待客計40人程度。

 基本的に会場に丸投げ。

 披露宴は食事会。行うのは、ふたりの挨拶(最初と最後)と私の父のスピーチだけで、あとは歓談。お色直しとかケーキカットとか当然なし。

 二次会は会費制ミニパーティでハニー友人関係、同じく三次会は私関係。


 という次第となったのでした。


 まず、それぞれの親への挨拶と、自分たちで準備を行う宣言を行います。


(あなたのお母さん、さみしそうだったね……)


 そして次回の話は。

 ハニーの友達情報に従い、ゼ〇シィの相談所へと出かけます。



(ジャリジャリほっぺはいやじゃーっ)


 はいはい。ヒゲ剃るよ。

 ハニー、愛してる。


 そして、うつと診断されるまで、あと3年。

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