俺の伴侶がこんなに価値がないはずがない

 平成18年3月下旬、私たちはゼ〇シィの相談所を訪れました。


 もちろん来ているのは皆バカップルで、私たちもその一員です。

 係の女性は色々ツっ込みたいこともあるだろうに、にこやかに応対してくれました。

 新婚旅行や指輪ショップの案内に加え、式までの段取りなど、ずいぶんと知識を得ることができました。ネット調査と違い、単語や用語をよく知らなくてもすぐ尋ねることができるし、スルーしやすいけれど知っておいたほうがいいことも教えてくれたのは、とてもよい利点でしたね。


「こちらが会場の候補になります。後は実際に確かめてはいかがですか」


 その勧めに従い、私たちは都内各地を巡る旅へと出発したのです。

 そう、旅。

 それはまさしく「旅」でした。


 ところで。


「結婚式は虚礼なのでする意味がない」


 世の中にそういう考えがあることは知っていましたが、ふたりの間ではまったく話題にあがりませんでした。色々とパスしたい要素はあっても、祝いたい人(自分たちも含め)のために普通の式そのものは必要だと考えていました。

 また、同じ効果のあるイベントを自分たちだけで行う場合、それに費やす時間・労力・精神力を換算すると、通常システムを利用するよりも莫大な損失になる、という共通認識がありました。神前式・仏前式・人前式を選ばなかった理由も、ほぼ同じでした。


 もし、結婚式は虚礼なので「しない」「したくない」というかたが本当にいらしたら、私は「本気で」お聞きしたいことがあります。


 ちょっとマジメな話だよ!


 それは「言外のアンチメッセージの防止」を、どうやって行うのか。

 という問題です。


(どういう意味?)


 皆さんはこんな経験はありませんか。

「そんなつもりじゃなかった」「そう受け取られると思わなかった」言葉を、

 大事な人にうっかり言ってしまい、大変な事態になったことはありませんか。

 それが、「言外のアンチメッセージ」(私の造語)ということです。


 それを防止する方法を見つけることは、私がこのテキストを書いた動機のひとつ、幸せな結婚を続けるためのよりよい方法を探す(第1~2話参照)ことに繋がるので、私は本気で知りたいと思っています。


 しかし、あらゆるメディアで「結婚式は虚礼なのでする意味がない」という考え自体はよく目にするのですが、「言外のアンチメッセージの防止」について言及しているかたは、いままで誰ひとりとしておられませんでした。


 結婚式は「お祝い」ごとです。それを行わない、ということは、直接の関係者(パートナーと周囲の人々)に、以下のようなアンチメッセージを言外に伝えることに他なりません。


「おまえにはその価値はない」、と。


 もちろん判っています。そんなつもりで主張したんじゃないですよね?


 でも残念ながら、これは受け取る側の問題、アレルギーや各種ハラスメントに類する問題なので、主張する側だけが注意しなくてはならないのです。

 たとえ、直接の関係者たちに真意が正しく伝わり、虚礼廃止の同意を得られたとしても、問題は残っています。


 なぜなら、直接の関係者たちのそのまた周囲の人々が、その行動をアンチメッセージとして勝手に解釈する危険があるからです。「あの人たちって、結婚式挙げないんですって」「きっと何かしでかしたのよ、やーね」などと。


 私もいきどおりがあるのですが、「普通」でないことをするなら、「普通」でない評判が立つのは、仕方がないことです。


 私が知っている唯一の「言外のアンチメッセージの予防」方法は、「もっともな理由」があることです。貧乏とか、本当に忙しいとか、病気とか、お祝い金やお悔みも突き返し親の葬式にも出ない、ほど虚礼がキライだ、とか。

 そして理由があったとしても、パートナーにだけは「あなたをないがしろにしたいわけじゃない」という前置きも必要になるでしょう。


 また、「言外のアンチメッセージ」を発するおそれがあったとしても、「予防ではないが後からできる対処方法」は確かにあります。

 、という対処法です。

 さらに造語をでっちあげるとしたら、「AKY(あえてKY)」ですね。


 ※ご注意 ここでいう「KY」とは、「現場作業における危険予知」でもなく「朝日新聞珊瑚記事捏造事件(要検索)」でもなく、もちろん「空気が読めない」のKYですからね!


 私たちの式には余興はありませんでしたが、そのことで文句を言うような感性をもった人(いませんでしたが)は、と思っていました。


 でも……


 もっともな理由、なしに、

 結婚式は虚礼なのでする意味がない、と思われるすべてのかたに、

 私は本気で問いかけたい。

 本当に、どうするんですか?


 勝手なことを言いそうな人たちにあらかじめ通告する?

 そんな人たちにいきどおりだけしておく?

 それとも私たちがそうしたように、「AKY」でいく?


 誰か教えてプリーズ!!



 さて。

 そのとき私たちは、予算とスペックで候補とした、都内のホテル2ヶ所と結婚式場5ヶ所を見学する予定でした。


 まず、私たちが手を繋ぎながら向かったのは、どピンクの、まるでケーキのような8階建てビルが、まるごと式場になっている所。

 関係者も参加者もすべてタテ移動という、見かけも機能も若者向けの式場ですね。


 次に行ったのは、駅から徒歩5分の老舗大式場。

 駅から近いとはいえ、転げ落ちるような坂の下にあります。

 その中が凄い。池、太鼓橋、チャペル、宴会場が入り混じるカオスなのです。

 まるで某アニメに出てくる神隠し界の大銭湯でした。


 次は銀座の式場。

 全体的にコンパクトでしたが、なかなか豪華な雰囲気です。

 担当してくれたお姉さんが、私たちの年齢とスピード成婚ぶりとイチャイチャを目にして、「私なんだか希望が出てきました」と呟いたのが印象に残りました。


 行ってみたら意外に安っぽかったり、豪華だけど駅から遠かったり、年寄りには式場内部の移動に難がある所もありました。


 吉祥寺にてお好み焼屋とビールで旅の疲れを癒しながら話し合い、最終的に決めたのは、大本命だったマスカレード・ホテルでした。

 地下の出入口が地下鉄駅に繋がっていて、駅から0分のホテル。

 趣味がよく、(試食はしてないけど)料理もよく、係員さんの対応も丁寧です。

 二次会会場もそこのサロンで決定です。


 決め手になったのは、サービス(の期待感)とアクセス(内外)。

 招待客(予定)の中には、車イスや偏食のかたがおられたからです。

 ホテルのプランナーさんもまた、にこやかに応対してくれました。


(あの人可愛いかったよねー)


「ウェディングドレスはこちらの衣装室でお選びくださいね

 今日はご試着なさいますか?」

「いえ、自分で縫いますから」

「……持ち込み料がかかるんですが」

「結構です」


(あたしが縫ったドレスのほうが素敵だったでしょ?)


 もちろんだとも。とても綺麗だったよ。

 すてきなハニー、愛してる。


 そして、うつと診断されるまで、あと2年と11ヶ月。

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