アイがたどりつく場所

あきらめたらそこで

 このテキストは「失敗続きの物語」です。


 単に、中年男が結婚相談所で出会った中年女と結婚する話。


 どこにでもいるダサいオジサンが、人によっては鼻歌混じりでこなすレベルのことを、ムキになって、汗だくになって、キモいことを呟きながら、それでも前に這いずって、ささやかな、ありふれた、他人にとってはどうでもいいけれども、かけがえのない小さな小さな夢を最後に掴む、ただそれだけの物語。


 どうすれば、夢がかなうのか。

 その問いかけに、こう答える人がいます。


「あきらめなければ、いつか夢はかなう」


 そんなことは、当たり前です。誰でも知ってます。

 問題は、あきらめないでいられるのか、ということなのに。

 誰もが呟く、せつない問いかけは、虚しく、答えのないまま、

 風の中、雲の向こうに消えていく。


 しかし、私の胸元からは、一筋の光が指し示していました。

 雲の向こうに、本当にあるはずのラピュータに向かって。

 私の胸には、飛〇石ならぬ夢の欠片かけらが、あったからです。

 その確かな感触に、私はあきらめないでいられたのです。

 なお、夢の欠片かけらについては、次回以降に語りたいと思います。


 ※ご注意 もちろん「ラピュータ」は「ガリバー旅行記」からの引用ですよ?


 平成15年から16年にかけて、月に3人ずつ、計約50人以上のお相手をZから書類で紹介されました。そのうち、電話・メール連絡の段階まで行けたのは10人ぐらい、この期間で会う段階までたどり着いたのは、Eさん、Fさん、Gさん、Hさん、そしてIさんの5人です。

 その期間、後からZに入った妹に、先を越されたりもしました(泣)。


 書類の紹介から2度以上会うことができたのは、Iさんだけでした。

 つまり、他の人は、それ以前の段階でダメになったということですね。

 40人以上に、プロフィールと写真だけで断られ続けたのです。


 Eさんは待ち合わせのカフェに眠そうな顔で現れて、お腹が空いているからと、いきなりステーキプレートを注文したので、面食らってしまいました。


 10才も年下のFさんとの会話はまったく盛り上がりませんでした。


 Gさんは喫煙者で、少々やさぐれた感じはありましたが、紫煙の似合う美女でした。彼女とは1度会ったあと何回か深夜に電話を交わし、しんみりとした会話で(いい意味で)泣かせたこともありましたが、やがて連絡は取れなくなりました。


 Hさんは少し遠い地方に住む、たれ目のぽっちゃり系美人でした。彼女は、親の介護のために近い距離の人を選びたいけれど、申し込まれたら会わないのは失礼だと思った、と言ってくれました。彼女とは先には進めないけれど、気持ちをお互いに切り替えたために「婚活ぶっちゃけ話」ができて、とても楽しい時間が過ごせたのを覚えています。


 このテキストを最初から読んでくださっているかたは、あれっ?と疑問に思ったかも知れません。


「尻鳥は女性と話せるようになったの?」と。


 そうです。私は少しずつ、女性との会話ができるようになっていたのです。

 私の人生において、これほど沢山の普通の適齢期の女性と、対等なコミュニケーションをとった時期はありませんでした。


 沢山の女性から拒まれ続けるのは、つらく、苦しい体験です。

 たとえそれが、単なる巡り合わせ、ほとんど運のようなものだと判っていても。


 この頃から現在にかけて、「結婚」そのものに興味を引かれた私には、婚活にトライしている男性たちと話す機会が多くありました。彼らの中には、この苦しみに心が折れて、あきらめてしまう人がとても多いことをご存知でしょうか?


 そして、モテる人や、過去に彼女がいた人は、それゆえに心が折れやすい人がいるのです。


「こんなはずじゃなかった」

「もっと俺はできるはずなのに」

「何がいけないのか判らない」……


 そう思ってしまうからです。

 あ、もちろん、うまくいかない理由が明確な場合はありますよ。

 本人がありえないほど油断していたケースです。


 私がお相手の写真をZに見にいくときは、それなりに小ぎれいな恰好をして行きました。タイミング的に、そのときのマッチング相手にちょうど出くわす可能性は低くないだろうと思ったからです。

 もし、私の写真を見たお相手のかたが、ふと見上げると、ズボンのチャック全開の私がいたとしたら……たぶん、申込みは断られてしまうでしょう。

 だと言うのに、あるとき、Zの支店で、私は信じられない光景を目撃しました。


 ジャージにサンダルで来た男性会員を!


(きっとご近所の人だったんだよ~)


 いや、ジャージはないよ~ 油断しすぎだよ~

 ありのままの姿見せすぎよ~

 こんなダサい私ですら、ネクタイまではしなかったけど、それでもジャケットくらいは着てたのに。


(そのときの気持ちを常に忘れないように。いいですね?)


 でも。

 油断などせず、ベストではなくてもベターをつくしたのにもかかわらず、結局うまくいかなくて、あきらめてしまった人もまた、やっぱり実在するのです。


 彼らに、その先へと行けた私にものは……


 それは……


(それは?)


 あっ、ところで今日、世界一愛してるって言ったっけ?


(まだかもー)


 ハニー、世界一愛してるよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る