迷ったら馬鹿に訊け
私の結婚生活には、モデルがあります。
そのモデルとは、幼いころに見た古い米国TVドラマの数々です。ブラウン管の向こうで交わされる夫婦の深い愛情の描写に、いつか私もと、あこがれていました。ダーリン、ハニー、と甘く呼び合い、ハグと話し合いを繰り返し、おたがいを尊重する、素晴らしい生き方。
現在の米国はどうだか知りませんが。
その、あこがれのシーンのひとつに、投票についての行動があります。昔の米国では、選挙日になると夫婦は着飾って出掛け、それぞれ応援する候補者に投票したそうです。そんな夫婦の、そんな市民のあり方が、私の理想でした。
選挙について、やはり古い米国TVドラマのエピソードに、今も印象に残っているシーンが、ふたつ、あります。
ひとつは、世界でもっとも有名な空飛ぶスーパーヒーローのTVドラマ(モノクロ)で、反社会的な候補者が選挙違反をする回の、ラストシーンです。
すべてを解決してくれたヒーローに、街の人々が大喜びで感謝しながら、投票場に向かいます。そのひとりに、ヒーローが何気なく話しかけるのです。
「誰に投票するんですか?」
その答えがまた最高に素晴らしい。
「それは貴方にも言えません」
その言葉にヒーローは深く頷き、「そうでしたね」と言って飛び去るのです。
もうひとつの、選挙についてのTVドラマは、アメリカの田舎町を舞台にした話です。
誰に投票したらよいか迷う主人公に、年上の男性がアドバイスをする場面です。
「だったらジャック(仮名)に訊けよ。ああいう罪のない馬鹿が選ぶ奴の、対立候補に投票すればいいんだよ」
海外ドラマだから辛辣な台詞ですね。
さて、どこにしよう……
私はパソコンの前で迷っていました。平成15年のことです。
いくつかある大手の結婚相談所。その中でひとつを選ぶべく、それぞれの会社のホームページを見比べては、ため息をつく。どれもこれも、似たような美辞麗句に溢れています。私の秘められた動機(前話参照)からすれば、ブランド効果のある(説得力のある)大手以外の選択肢はありえません。もちろん、ワザとダメな所を選ぶのは論外です。
いっそのこと、サイコロか何かで選ぼうか……
そう思いましたが、ふと思いついて私は「某匿名掲示板」を開きました。
あるある。
思ったとおり、大手の結婚相談所を実際に利用した・利用している人たちが、その相談所ごとのテーマの板ごとに、様々な考えを投稿していたのです。しばらくそれらを眺めたあと、私は作業に取り掛かりました。
1. 「ノイズ」をスルーする。
ご存知のかたも多いと思いますが、某匿名掲示板には、その板のテーマとはまったく関係ない書き込みがあったり、「荒れる」と表現される感情的書き込みが続いたりします。
これらを見ないことにします。
2. 「悪口」の数を数える。
その結婚相談所についての書き込みのうち、悪口を数えます。悪口の内容には特に注目しません。
3. 「愚痴」をよく読み、自分なら許容できるかどうか考える。そして許容できない愚痴の数を数える。
その結婚相談所についての書き込みのうち、愚痴に見えるものをよく読みます。愚痴と悪口の違いは、私にとっては「自分にも落ち度があった(かも知れない)」、「しかたがない(かも知れない)」というニュアンスの有無です。
許容できるかどうか、というのは、主観的判断です。たとえば、「紹介する人がいない、と言われた」とか「結局おいくら万円かかる」というのは許せませんが、「今月は外ればっかりだった」「あんまり親身になってくれない」というのは、私はそう感じないかも知れないので、許せる範囲ということになります。
4. 悪口と、許容できない愚痴が、もっとも少ない結婚相談所を選ぶ。
こうして私は、結婚相談所の大手「Z」に入会することに決めたのでした。
悪口でのみ評価するとされる場所「某匿名掲示板」において、悪口が最も少ない候補。
それがベストであると期待したのです。
迷ったら馬鹿に訊け。それは今も実践している、私の方法論のひとつです。
今から思えば、それは結果的に最良の選択でしたが、もちろんその方法論が絶対的に正しい証明にはなりません。
忘れちゃいけません。馬鹿は自分側かも知れないのだから。
「じゃあ逆に、利口には聞かなかったの?」
あなたはそう疑問に思うかも知れません。
利口、というと、身近な人では東大卒の「先輩」がいましたが、彼には聞きませんでした。いいトシで恋人もいたのに独身だったからです。
では、世の中にあふれている、いかにもな利口者たちが書いた「婚活や結婚のハウトゥー本・サイト」ならどうかと言うと。
私はそのほとんどを、まったく信用していませんでした。
ひどく無責任な態度だと感じていたからです。
でも、このテキストの冒頭で書いた、ホテルの担当の人や、結婚相談所の人に対しては、そうではありませんでした。
さて次回は、結婚相談所で必要になるお金の話です。
いったい私はいくら払うことになるのか。
うそっ、私の年収、低すぎ⁉
今度の選挙も、おしゃれして一緒に行こうね。
(うん、そうだねダーリン)
愛してる、ハニー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます