ロボ先生はどこにでもいる

 古い古い特撮テレビドラマに、とあるキャラクターがいます。

 彼はロボットの先生、つまりロボ先生(仮名)です。


 その物語の主人公もロボットです。

 愛嬌のある未熟なキャラクター、つまりロボ君(仮名)です。

 ロボ先生は失敗を繰り返す主人公のロボ君に、いつでも零点の評価を下します。


「ロボ君、零点!」


 まあ、零点もしょうがないな、という失敗ばかりですが、主人公がだんだん成長して、本当に人の役に立つようになっても、なぜかロボ先生の評価は零点のまま変わらないのです。


 零点の理由は、買い物を忘れたとか、掃除が甘いとか、主人公の活躍に比べるとわずかな失点ばかり。人命救助しても、ご町内滅亡の危機を回避しても、ロボ先生の評価は同じ零点なのです。


 ロボ先生がいるのは、古い特撮テレビドラマの中だけではありません。


 いつでも、どこでも、他人に零点しか付けないロボ先生はいます。あなたのそばにもいるはずです。

 あなたの心の中にも(私の心の中にも)いるかも知れません。

 ロボ先生は正しいかも知れません。あなたに期待しているかも知れません。あなたのことを愛しているかも知れません。


 でも。


 ロボ先生は低評価しかつけません。どんなに努力しても、やむをえない失敗だったとしても、ロボ先生は褒めません。

 そういうプログラムなのです。そういうキャラなのです。

 そういう存在だと、受け入れなければならないのです。


 ロボ先生から離れないつもりなら。


「君は零点だよ」と、「先輩」も言いました。半笑いで。


 婚活する数年前、まだ本気で婚活しようとは思っていなかった頃。

 とあるデート直後の飲み会でのこと。


 そう、私はデートしたんです!


 私は先輩が紹介してくれた女の子Aさんとデートに漕ぎつけたのですが、そのときの行動をダメ出しされていました。

 どうしてデートの様子が他人に判ったのかって?

 先輩はAさんから聞きだして、酒の席で話題にしたのでした。いや、Aさんのほうから苦情が出て、先輩は「私とAさんのために」義憤にかられて「あえて」言ったのかも知れません。


 ※ご注意 この「先輩」とは、「先輩ムーブをする飲み仲間」という意味です。


「あの服はダメ、この台詞がダメ、あんな不味い店に行ったのがダメ、君のプレゼント笑ってたよ。Aさんほど彼氏が欲しい子はいないのに、あーあ、君何やってたの。君のために言ってるんだよ。本当に君のために言ってるんだよ。惜しかったねえ。本当に


 うわっ、キッつー。

 さすがにして「ゼロは何倍してもゼロなんだよ」が口グセの人の責めは一味違います。

 照れたような曖昧な笑顔を浮かべたまま、私は適当な受け答えをしていました……


 私は傷つき、ショックを受けていましたが、それは先輩にからかわれて肴にされたせい「だけ」ではありませんでした。

 だいたい私自身にしてからが、飲み仲間カーストの低い人をイジるのが大好きだったのです。今までさんざん弱いものイジリをしてきたのに、いざ自分がイジられたら傷ついたなんて、身勝手もいいところです。それに先輩には副職や趣味の分野で大変にお世話(先輩ムーブ)になっているし。


「惜しかったねえ」


 先輩のその言葉が、お酒と一緒に頭の中をぐるぐる回っていました。デートが失敗だったことは、鈍い私でも判っていました。そう、私もそう思っていたのです。「惜しかった」と。


 悲しんだのではない。

 怒ってるのでもない。

 好きになってもいない。

 ただただ、惜しかった。


 自分自身の好き嫌いや、Aさんの人格とか内面などに一切関係なく(Aさんがオタク心をくすぐる仕事をしていることには興味がありましたが)、Aさんのスペック(若くて美人)「しか」、惜しいと思わなかった。

 先輩の言葉をきっかけに、そんな最低な自分を見つけたことに、一番ショックを受けていたのです。

 また同時に、怖くなりました。この頃の私には、先輩を通じていない交友関係はほとんどありませんでした。一番の旧友ですら、先輩が仕切るアニメファン活動を通じて知り合ったほどです。


 まったく先輩たちと関係ない誰かと、そう、せめて、酒の肴にされないですむ人と出会いたい……


 このときの私は、結婚したいという漠然な思いと、結婚なんかしても無駄だという漠然な思いが入り混じっていました。


 結婚については、そもそもなぜ結婚したいのか、そしてそのために何をしたらいいのか、見失っていました。今にして思えば、なんとなく欲しいと思っているだけで特に自分からは何もせず、ただ池の鯉のようにパクパクと口を開けているだけでした。


 街でナンパ?


 そんなことが出来たらこんな苦労はしていません。ええ、もちろんナンパできる人を尊敬していますよ。

 私にその方法は向いていない……いや、ヘタレの私には出来ないから。


 結婚なんかしても無駄だ、というのは、は誰でも必ず「ひとり」になってしまうの、結局結婚したって人生の無駄だ、という理屈です。

 そのときの私はその理屈が、どこからやって来たのか知りませんでした。

 ただし、私はまた、その理屈は結婚に対して及び腰にいることを正当化しているという自覚がありました。


 だったら、どうすればいい?


 結婚するために、とある方法があることは知っていましたが、とある理由でそれは行うつもりはありませんでした。

 せっかく結婚する方法が世の中にあるというのに、自分はその方法を知っているというのに、ぜいたくにも拒んでしまうその理由とは?


 次回は、その結婚する方法と、それを拒む理由を語ります。


 ちなみに、若くて(もちろん当時)美人のAさんは、のちに先輩が半笑いで語ったところによると、いい人と結婚して沖縄(フェイク)で暮らしているそうです。


(ふーん、若くて美人ねえ)


 ごめんね、他の女の話なんかして。

 愛してる、ハニー。

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