「これがプロの洗礼か」
「キタキタキターッ!」
Zから書類が届きました。
ちょっとテンションが上がります。
これから毎月届く、3人分のお相手のご紹介書類です。
内容は、非常に短い釣書のようなもの。写真もなく、苗字すらありません。
写真はZの各支店に行けば見ることができます。しかし、Zへの連絡を経てお相手の了承を得ないと、連絡先を知ることもできないのです。個人情報保護の観点からは合理的システムですね。
「……な、なんだ、この人」
記念すべき最初の、これからの活動を暗示するかも知れない、3人の女性。
そのうちの1人、Bさんの自己紹介メッセージ欄には……
「動物を30匹飼っているので動物ギライの方はお断り。その世話で忙しいので仕事や家事はしません。夫婦別姓が法整備されるまで入籍不可。〇〇(某マルチ)の会員です」
ぽかんと口を開け、私はBさんのメッセージという「要望」を見つめました。
※ご注意 この「要望」はフェイクが混じっています。たとえば、「某マルチ」は「ある意味で有名な宗教団体」かも知れないし、「ある意味で有名な政治団体」かも知れません。私にとってはこれらのフェイクと同程度のインパクト内容だったと思ってください。
もちろん、どんな主義主張や要望を持つのもその人の自由です。その内容について異議を唱えているのではありません。私に同じものを要求しない限り。
衝撃を受けた理由は、どれひとつとっても、「普通」の結婚生活の意味そのものを問いかける条件だと私には思えたからです。しかもこのメッセージには、私だったら入れずにいられない「あのー、もし良かったらでいいんですけど」とか、「協力してくれると嬉しい」というニュアンスがまったくない。
対する私は確かに
そのどれひとつとっても、毛嫌いする女性がいることを知っています。Bさんもそう思うかも知れません。現に、Bさんからのアプローチはありませんでした。
小さな自信は、もろくも崩れ落ちました。
何が「真理」だ。何が
お相手を理解しようとすればアドバンテージになる?
だれが言ったんだそんなこと。
「これ、どう理解しろって言うんだよ…… これがプロの洗礼か……」
(プロの洗礼ってなあに?)
アマチュアスポーツ選手が、プロのデビュー戦でボロ負けすることだよ。
私は猛烈にBさんに会いたくなりました。
Bさんに魅かれたのではありません。会ってその肩を両手でつかみ、ガタガタ揺さぶって、こう叫びたかったのです。
「あなたにとって結婚ってなに!?」
もちろん、そんなことはしませんでしたが。
再三、繰り返します。これは個人的な感想です。
私がZで理想の人を見つけたように、BさんもZで理想の人を見つけたかも知れません。Zの会員でBさんを理想の人と思う人もいるかも知れません。出会い方が違えば、私はBさんの友人になりたいと思ったかも知れません。
他人ごとならBさんの生き様は面白いのよね。
そして重要なことなのですが、私が入会前に恐れていたのは、私を蔑む女性と出会うことであって(結果的にそんな人はひとりもいませんでしたが)、Bさんのようなタイプの女性と出会うことではありませんでした。
まあ、ひどく想定外ではありましたが。
そして、Bさんがきわめて稀な存在であることは、当時であっても常識的に判りました。だから、その程度の、ただ一例で、愚かにもZや婚活に失望することもありませんでした。
今にして考えてみればそれは、会員が何万人もいれば、理想の人もいれば理解できない人もいる、という当たり前の事実なのです。
だいたい、洗礼ごときで挫けてたらプロにはなれないし!
(何のプロなんだよっ!?)
なんとか気を取り直した私は、お相手のかたがたの写真を見るために、Zの新宿支店を訪れました。
写真を見るためのスペースには、パーティションで区切られたデスクの上に、PCがずらりと並んでいます。会員がその席で自分の会員番号を入力すると、一定期間だけ現在のマッチングお相手の写真を見ることができるのです。
一応、Bさんの写真も見ておきましだが、やはり申し込む気は起きませんでした。
他の2人には連絡を申し込みましたが、後日あっさり断られました。こうして婚活の初戦は負け(精神的にはボロ負け)となったのでした。
ちなみに、私自身が書いた自己紹介メッセージは、このようなものでした。
「大きなぬいぐるみのクマ。でもパートナーに危機が迫れば、本物のクマになって貴方を守ります」
いやー、オリジナリティを追求しすぎて、実にオタクっぽいですね!
(私は見なかったけど、ホントそうだよねー)
後で判ったことですが、事実、私のメッセージは浮きまくるほどオリジナリティに富んでいました(自画自賛)。他の会員の皆さんが書いた自己紹介とは根本的に違っていたのです。他の方々は、ごく単純な自己紹介か、お相手に出す条件の補足(映画の好きな方とか)としてメッセージを書いていたのです。
お相手への条件の補足。
Zの書類に書いた「お相手への条件」、コンピュータに登録される情報には、細かい条件の入力は要求されませんでした。それは本質的に個々の付き合い・話し合いにまかされていたのです。
私もお相手に、もっと条件をつけたほうがいいのかなあ。
自分を認めて欲しいという気持ちは抑える。そう誓ったはずなのに、初めて読んだ他の人のメッセージに、私は心が揺れました。
でも、私がお相手に求める条件って、何だろう。そういえば真剣に考えたことがなかったなあ。
そう思った私は、「あること」を行いました。
「それ」をしたことは決してムダではなかったのですが、いや、むしろ「しなければいけなかった」ことだったのですが、「やらなきゃよかった」と後悔もした「行為」だったのでした。
(何しちゃったの?)
それは次回の話だけど、読んでも嫌いにならないでね。
ハニー、愛してる。
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