おわりに 私の宝石
結婚する前、ずっと思っていました。
「
「
それは間違っていました。
ハニーのすべてを好きだと思っているのは確かでも、それでも。
彼女は、もともと私が持っている「
(お互いさまだもーん)
結婚する前、ずっと思っていました。
2次元の、アニメやマンガのキャラクターに比べて、3次元の、実在の女性は、
キャラが薄いのでつきあってもすぐ飽きてしまうのではないか、と。
それは間違っていました。
実在の女性は、その外側にも内側にも無数のキャラがあって、しかも私の影響を受けて変わっていく。私がその女性をちゃんと見ている限り、決して飽きない万華鏡のような存在でした。
(あったりまえでしょ?)
結婚する前、ずっと思っていました。
私を好きになる人は、とても変わった人だろう、と。
マニアックな趣味とまでは思いませんでしたが。
それはある意味間違っていました。
愛しのハニーは、正しすぎるがゆえに変にしか見えない人だったのでした。
(悪かったわねっ)
私は浮気をしません。
それは、私が浮気しないほど妻を愛している、とか、
そういうことに「向いてる」性格ではない、というだけではなく、
不倫や浮気をする人の気持ちが、まったく理解できないからです。
(私もわかんないなー)
私にとっての結婚とは。
砂漠を水もなく徒歩で横断した旅人が、やっとの思いでたどりついたオアシス。
体に染みこむその水の旨さに、たとえようのない感謝の気持ちを持つもの。
冷えたコーラを片手にヘリコプターでやってきて、ぷっ、とオアシスの泉にガムを吐き捨てる人の気持ちを、私は理解できません。
私が掴んだものの価値を認めない人は沢山いると思います。
オタク、デブ、チビ、持病があって、子供はいない。家(笑)もない、車(笑)もない、男のプライド(笑)もない、しかもテレビ(爆笑)も持ってない
だからお前は不幸なのだ、絶対不幸であるべきなのだ、とあざ笑う人たちが。
(笑っているのはダーリンなの?それとも他の誰か?)
それでも、私は幸せだ、と胸を張って言うことができます。
なぜなら、私がそれを自ら掴んだのは事実だから。
たとえ、いつか思い出に変わったとしても。
私が掴んだものの価値を認める人も沢山いると思います。
でも、それは単に運が良かっただけなのだ、だから幸せなのだ、と言う人も沢山いると思います。
絶対に運が良かっただけであるべきだ、ただそれだけだ、と言う人たちが。
私も運が良かった、と思っています。
私には、それなりの絶望やウツという不運がありました。それは事実です。
その不運がなければ、愚かな私は、いま掴んでいるものの価値を知ることができませんでした。その不運がなければ、いま自分は幸せだ、運が良かった、と思うこともなかったでしょう。
運が良かった、だから幸せなのではありません。
幸せだから、運が良かったと言える自分がいるのです。
(私もしあわせー)
また、私は、誰にとっても、「ただひとりのひと」にめぐりあう難しさは同じだと思っています。沢山の色々なモノに恵まれて、伴侶など簡単にゲットできそうに見える人ならば、そのスペックにつりあう人を見つけることは逆に難しくなるでしょう。
さらに、良さげな候補者を見つけたとしても、「この人は私が持っているモノに魅かれているだけで、私自身に魅かれているのではないのかも」という疑いから無縁ではいられないでしょう。
このテキストの冒頭で、私は夫婦の愛情を、落ち続けるグライダーに例えました。
しかし、こうやって実際に「事実」を書き連ねてみると、その「例え」は適切ではないと思うようになりました。
私は、あなたと同じように、人間です。
グライダーのような機械ではなく、プログラミングされたロボットではなく、カゴに閉じ込められた鳥でもなく、コケッコーと鳴くだけの飛べない鳥でもありません。
もし、墜ちそうになったのなら、ふたたび飛べばいいだけのことなのです。
その心に生えている、自由の翼で。
ひとりではなく、
結局、結婚をめぐる私の「冒険」とは、単に伴侶を求めるだけではなく、「自由と希望」の意味を求める旅でもあったのかも知れません。
(ダーリン、ちょっとクサいんじゃない?)
夫婦なんて、くさいものさ。
実は私は、とあるポリシーを持ってをこのテキストを書きました。
これを読むあなた自身に向けて、こうしたほうがいいですよ、こうしなさい、こうするべきだ、などという書き方を、私はしたくなかった。
なぜなら、ありふれた「婚活・結婚ハウツー本・サイト」の上から目線のゴーマンさに、私自身が傷ついていたからです。
やってみもせず、できもせず、ギャグでもエンタティメントでもなく、反面教師になる覚悟さえない人たちの言葉に、私自身が踊らされたことがあるからです。
すべての著者がダメだとは言いませんが、自分はそうなるまい、と誓ったのです。
また、私が経験した事実として、結婚していない人、そして、結婚していても幸せではない姿を見せているときの人からは、私たちふたりの幸せを見出すための知恵は(時には私の両親からも)ほとんど得ることはできませんでした。
心に沁みたのは、(いつもはそう見えなくても)自身の伴侶への愛情が確かにあることが見えたときの言葉だけでした。
(そうね……)
そう、たぶん……
人生におけるすべての問題とその答えは、人によって違います。
転職とマイ・マリッジで、私はそれをより強く確かめることができました。
だからこそ、他人の助言は本質的に役に立たないのだ、と私は思います。
しかし、それでも……
他人から役に立つ知恵を得るとしたら、それもまた「
さて。
ついにこのテキストも、本当の終わりが近づいてきました。
まずは、フェイクを入れたとはいえ勝手にネタにしてしまった皆様に謝ります。ごめんなさい。また、かわりなく私たちを支えてくれる沢山の人たち、および、事後承諾にもかかわらず「問題なし」と認めていただいた「Z」こと「(株)ツヴァイ」には最大限の謝辞を。本当にありがとうございます。
最後ですから、私がこのテキストを書いた、本当の目的を言いましょう。
その目的は、ふたつ。
結婚についてただ自分が言いたかったこと、そして、これを読むあなたに聞いてほしかったことがあるからです。
ひとつめは。
私がこのテキストで言いたかったこと、繰り返し繰り返し書いたことは、
実はたった3行にまとめることができます。
ふたつめ、あなたについても。
これを読むあなたが、結婚しているのか結婚していないのか、私には判りません。
しかし、ひとつだけ、あなたについて判っていることがあります。
そう、誰ひとり完璧な人間はいません。
そんなあなたに聞いてほしかったけれど言わなかったことは、
文章にすればたった1行だけです。
そして。
私は、このテキストの冒頭に、先ほど挙げたポリシーとして、こう誓いの言葉を書きました。
> だから、私が書くのは、「私はこう思った」、「私はこうした」、「そのせいかどうか判らないけど、こうなった」ということに尽きるのです。
いま、あえて誓いを破り、3行プラス1行の、合計4行の言葉を。
あなたに贈ります。魔法の呪文の祝福とともに。
私は足りなかった。
だからこそ、救われた。
だから、これからもそうかも知れない。
だから、あなたもそうかも知れない。
前にも書いたとおり、ふたりの結婚指輪には宝石などついていないシンプルのデザインなのに、イタリア語でこう刻まれています。
「
そこには無いように見えても、いつも輝きはすぐそばに。
ハニー、永遠に、そして世界一愛してる。
(チュッ)
コケッコー御結婚 尻鳥雅晶 @ibarikobuta
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます