運命の人は期間限定アイテム
妻は婚活中、Zで出会ったお相手のことを、友達に相談していたそうです。
(ぺラペラ逐一レポートしてたよー)
その中で、
どこで誰かが私を助けてくれている。……世界はなんて素晴らしい。
私はあまり人に相談しませんでした。お相手より自分に、特にコミュニケーション能力に問題があることが判っていたし、相談する相手もいなかったからです。
旧友のKは、出会う女性が皆ふつうの人だと言うと「だったら俺ならいつも会ってる声優とつきあうな~」と抜かしたので、何も相談しませんでした。
「先輩」には、建前としてこう言いました。
「先輩は恋人がいてイイ年なのに結婚してないでしょ。結婚否定論者に相談することは何もありませんよ」
もちろん、からかわれるのがイヤだったのが本音です。
また、「婚活や結婚のハウトゥー本・サイト」の利用は、前にも挙げましたが、たいてい信用できないため、参考にしていませんでした。コミュニケーション能力を高めるのが大事です? うん、知ってる。
とはいうものの、Zのカウンセラーさんには相談しにくいことが起きる場合(二次会などもそうですね)に備えて、いますぐでなくても、内情に詳しい男性の相談者は欲しかったのでした。
2回目のパーティ、11月初めのホテルビッフェ・パーティで、目をつけたのがP氏でした。P氏は実に肩の抜けた態度で、かといって馴れ馴れしくもなく、ごく自然な態度で女性会員たちと会話を交わしていました。その姿は、ただ見ているだけで自分のスキルが高まるような気さえしたのでした。
……こいつ、使える。
そう思った私は、女性会員たちを尻目に、P氏とパーティ直後に飲むアポを取り付けたのでした。
(それがアイツか)
なお今回、私は前回のパーティでも感じた、男性会員の不甲斐ない面を再確認しました。彼らは、自分がアピールできるチャンスでも、女性の視線が多いときはスルーしがちでした。そうでない人もたくさんいるとは思うのですが。
「では、どなたかビンゴの数字を読み上げていただけますか」
Zの司会者がそう言ったとき、私の耳にはこう聞こえました。
「他の人を差し置いて自分だけアピールしたいかたはいませんか」
「……あ、はいはい、私やります」
すかさず私は声をあげましたが、それでも一拍遅れたので、ああ、負けた、と思ったのですが…… 立候補したのは、私だけでした。
……いける! このままパーティ参加を続けていれば、俺は必ず……!
自分の中に、新たなるパワーが形をなすのを感じました。
残念ながらその時のパーティではそれ以外に成果はなく、終了後にP氏と話すことができたのが救いでした。
正直言って、P氏のアドバイスは抽象的過ぎて、会話の内容はあまり参考にはなりませんでした。
なりませんでしたが……
さて、このテキストは、すべて本当に起きたことを書いています。まあ、少々の脚色や演出、心象風景、記憶違い、個人情報や著作権保護等のためのフェイク等はあります。
しかし、基本的に事実です。
その前提で、この偶然を書きたいと思います。そう、P氏の正体を!
P氏は……妻の初恋の人だったのでした!
もちろん、これが判ったのは結婚後、平成19年ごろの話です。私の名刺入れを見た妻が、これって中学のPかも、と呟き、電話確認したところ真実と判りました。
(すごーい、ぐうぜんー!)
そう……だね。
私は、これを単なる偶然とは思えません。
もし私が妻と出会わないか、または親密になることが出来なかったら、彼女はZで婚活を続け、やがてP氏と再会したでしょう。
初恋の人と、結婚相談所で再会する。
これはきっと運命だ、ふたりは出会う運命だったのだ、と話は盛り上がり、こういう話が大好きな
私を推薦したのと同じように。
(そうかもね……)
私は思います。
私が妻と出会うこと。たぶんそれは期間限定のチャンスだったのだ。
もし私が、やるべきことをやらずにいたら、たとえ運命の人が待っていたとしても、そう……その運命が、どれほど強大なパワーを持っていたとしても、そのパワーがそのまま逆方向に働いて、彼女は他人のものになっていたのだ。
別の人の運命の人になっていたのだ。
運命の人は、必ず現れる。ただし期間限定アイテムなのだ。
もし運命などというものがあるとしたら、おそらく、そういうものなのではないのでしょうか。
さて、次回は、ついに、私は……
初めての行為をしてしまうのです。
まるで、神に定められた運命に反逆するかのように……!
(私は運命なんて信じないけどね)
そうだね。
ハニー、愛してる。
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