第38話

 河原からどうやってここに来たのか、忠泰にはよくわからない。浅葱曰くテレポートらしいが、そんな事を話せば物理学者なら発狂しそうだ。

 しかし、そんな事よりも気にしなくてはいけない事がある。

「これからどうするの?」

「それを考えなきゃね」

 頭を痛そうに抱える。

「取りあえず秋則はここで預かっておく」

「まぁ帰らせるわけにもいかないし……」

 秋則の身の安全が保障されていない状態で町の中をうろつかせるわけにはいかない。

 安全とは言えないが、外よりはマシだろう。

 今は奥の部屋でぐっすりと眠っている。

 エルに頼んで護衛について貰っている。猫に何が出来るのか、と思っていたが、浅葱はかなり信頼している様だった。

 それよりも……、

「天津さんに連絡取れないかな?」

「天津と?」

 その意見に浅葱はかなり嫌そうだった。

「藤吉……」

「分かってるよ。私としても不本意だけど、確かに天津は頼りになる」

 なんだかんだ言っても、魔法の腕を認めてはいるようだ。

「でもムリ」

「どうして?」

「連絡先を知らない」

 タダヤス君はどう? という目で浅葱は忠泰を見る。思えば自分も連絡先を知らなかった事を思い出す。

「しまったなあ。連絡先を交換しておけばよかった」

 そうしておけば、助けてもらう事は出来なくても、アドバイスくらいはもらえたかも知れないのに。

 ならばと気持ちを切り替えることにする。

「ならさ、ばあちゃんの持ち物の中に使える物が無いかな?」

「平城セツの?」

 浅葱にはその考えは無かったようだった。

「確かに、『蔵』の魔法使い秘蔵の魔導具なら、粛清者に対抗出来るかも……」

「なら……」

「でも、私じゃその蔵に入れないよ」

「え?」

 話の腰を折るような意見だった。

「というか、タダヤス君はその蔵に入れるの?」

 言っている浅葱の意図が分からず、なんと言っているのか分からずにいると、浅葱が説明を追加する。

「こう聞こうか? タダヤス君はその蔵に入っても攻撃を受けないの?」

 余計に訳が分からない。だが、取り敢えず、質問に答えることにした。

「えっと……受けないよ」

「私は入ると攻撃を受ける」

 突然の言葉にそんなことを言った。

「『蔵』の魔法使いは世界に溢れる秘宝を管理する家系。当然、盗まれないようにする対策位はしているんだよ。平城家は決められた人以外が入れないようにしてあるんだよ」

 そう言えば、陽太も、蔵に入りたがらなかった。陽太は魔法使いではないが、「なんとなく」入らせない様にする魔法でもかかっているのかもしれない。

「じゃあなんで僕は無事なんだ?」

「そりゃ、今代の『蔵』の魔法使いだからでしょ」

 何を当たり前の事をきくのか?

 そんな風に言っているようだった。

「僕が?」

「私はてっきり当主代理って言うから、つなぎの当主だと思ってたけど、ここの管理を許されるって事は、正統な後継者って事で間違いなさそうだね」

「僕が? でも僕は……」

 そこから先はいつも言わなかった。

 だが、言わなければならないだろう。

「僕はばあちゃんの実の孫じゃない」

「孫じゃない?」

 浅葱は自分の事を話してくれたのに、という後ろめたさもあった。

「僕の本当の名前は分からない。この家の門の前に捨てられていた子供が僕だった」

「タダヤス君……」

「藤吉は言ってたよね。血は絆で血は力だって」

 その確認は浅葱に対してでは無く、自分に言い聞かせるように。

「藤吉に言われてからずっと気になってた。ばあちゃんは僕のために自分が受け継がなきゃいけない物を諦めたんじゃ無いかって」

 自分で答えるたびに身を着るような痛みが走る。自分の弱さを醜さを話しているのか。

「魔法の才能が無く、魔力の素養も無い僕がいなければ、もっとマトモな後継者をしていできたんじゃないかって」

「タダヤス君」

 その声は少し怒りが混じっている気がした。

 その怒りの理由をない計り兼ねていると、

「魔法使いだって人間だよ。一人の自立した人間」

 そう言った。

 最初は上手く理解できない。それは当たり前と言えば当たり前な答えだった。

 だが、それを当然てあったことを忠泰は初めて思い出した。

 そして、少しの怒りの理由を知る。魔法ふしぎに溢れているというだけで、魔法使いと人間を別個のものと見ていた。浅葱はそれを怒っていたのか。

「血は力で血は絆。それが通説だよ。でも、それが正しくないって思っている人もたくさんいる」

 浅葱は更に続ける。

「あなたのおばあさんが、何を考えたか分からない。けどね、君を当主にすることが、この家のためになるって思ったんだ」

「僕が……」

「平城セツはどんな人間だった?」

 少しだけ、亡き祖母の顔を思い出して、忠泰は口を開く。

「彼女は人を救い、人を導く。己の不都合に目をつぶり、他人に襲いかかる理不尽を叩き潰す。そんな人だったよ」

 その答えに満足そうに微笑む。

「だったら、タダヤス君は出来てる。やろうとしてる。平城セツという人間を知って、学んでから受け継いでいるんだよ。だってさ、自分が正しいと思ってアキノリ君を助けたいと思っているんでしょう」

 その言葉に頷く。それは当然の事。思えば、今自分がやっている事は祖母の行動の写し鏡。

「なら、その分だけレイブンなんて男よりも魔法使いが出来ているよ」

 浅葱はそう言った。

 魔法使いが出来ているとは不思議な言い回しだったが、その言葉はしっくりとしていた。

「だとすれば、タダヤス君は魔法使いとして役目を果たさなきゃね」

 確かにそうだ。

 祖母の家と祖母の土地を、踏み荒らさせる訳にはいかない。

「その為に、あの蔵にある物で何か出来ないか考えよう」

 ならば、作戦を立てるところから始めなければならないだろう。

「分かった」

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