第14話

『御主人。そらアンタが悪いわ』

 考えていると突如使い魔からそんな事を言われた。

『一般人にいきなり魔力の流し方が分かると決めつけてかかるなんて、そらあの兄ちゃんも困りますやろ』

「……確かにはたから見ても間抜けだったと思う」

 何であんな風に指導しようとしたのか自分にも分からない。

『むしろもっと間抜けなんが、その教え方が分からへんって事やんなー』

 兄ちゃんも災難やなー、とケタケタと笑っていた。

 掴んでぶん投げてやろうか、と思って腕を伸ばすも、エルはやっぱりひょいとかわす。

『で、どないします? お館様やったら何とか出来るんとちゃいますか?』

 お館様、とは、浅葱の母である藤吉家の当主の事だが、家出中の身の上としてはその手段はとりたくない。というか、何のために家出したのか分からない。

「……しばらくはこのままで頑張りたい」

『さよでっか』

 エルはその決定に口を挟む事はない。

 使い魔はそう言う風に出来ている。主人の命令には服従する。主人の意向にはなるべく従う。

『でも、聞いときたいんですけどな』

 そう、は。

『それは、上手くいくアテがあっての事ですのか?』

 時に彼らは主人を厳しくいさめる事もある。

「……」

 何も言えずにいると、エルはなおも続ける。

『それやったら、誰かに頭を下げる事も考えなあかんのとちゃいますか?兄ちゃんにとっても、御主人にとっても』

「……」

 そう言って、エルは『トイレに行ってきますわ』と部屋から出て行った。

 その気配が消えてから、

「難儀な猫ねー」

 と言って失笑する。そして、言っている事が間違いじゃない事が余計に難儀だ。

 エルはずっと黙って付いてきてくれたので気づかなかったが、ずっと浅葱の家出には賛成できずにいたのだろう。

 それは、誰でもない浅葱のために。

 ひょっとしたら、浅葱の事も、浅葱の母の事も、誰よりもエルが分かっていたのかもしれない。

 忠泰にとって何が一番いいのか?

 どうする事が一番いいのか?

 そうしていると思う。

 魔法以外に自分は何も出来ないのだろう。


 エルがしばらくしてから『ただいまー』と帰って来る。トイレにしては時間がかかったらのを見るとやはり浅葱に考える時間を与えたのだろう。

「エル。決めた」

『何を?』

 そして、浅葱は自分の考えを口にする。



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