第15話

「当主としての仕事をする?」

 浅葱が夕食中に言い出したのは、そんな話だった。

「そう、魔法使いとしての事よりも、当主としての仕事を知ってもらうのが、そもそもの目的だと思うから」

「ま、確かにそうだけども、僕は今魔法を使えないけどそれでいいの?」

 そう言って、疑問と不安を口にする。

「まぁ、使えないに越した事はないけど、使えないと何もできない訳じゃない。しばらくはサポートもするから安心してよ」

 先ほどの自堕落ぶりが嘘のように、シャキッとしているが、何かあったのだろうか?

「でも、当主の仕事って何をするの?」

「まぁ、私も後継者じゃないから何とも言えんだけど……」

 ダメじゃん、と思った。口に出さないが。

「魔法使いが知ってる限りで説明すると、住民の手助けと土地の管理、そして外敵の排除かな」

「が、外敵⁉︎」

 物騒な単語が聞こえて、思わず身をすくませる。

「あぁ、大丈夫だよ。何百年も前ならともかく、今はそんなの中々いないから。」

「……本当だろうね?」

「中世ならともかく、現代にそんなマネする人は中々いないよ」

 魔法使いは魔導機関に監視もされている。派手な動きをすれば一気にテロリスト扱いとなるので、その社会の中で生活する為には、ルールを遵守する他ない。

 魔法使いも意外と自由が利かない世の中なっている。

「じゃあ、外敵の排除はいいとして、住民の手助けと土地の管理って言うのは?」

「言葉の通りだよ。住民の手助けって言うのは、魔法で文字通り人を助けるの。直接手を出してもいいし、予言で人を導いたりとか」

 もっとも、直接手を出す場合は大っぴらにならないようにしないといけないけどね、と付け加えられる。

「土地の管理って言うのは、結界の綻びを直したり、地脈の流れを観測したりすることだね」

「結界? チミャク?」

 結界は昨日に見せてもらったが、地脈とは聞きなれない。新しい知識ばかりだ。

「結界ってのはこの町を覆う大結界のこと、外敵の侵入があれば警報を鳴らして攻撃したりとか、街の異常を知らせたりとかだね」

「じゃあ、チミャクってのは?」

「この土地に流れる地球が持つ魔力の流れのことだよ」

「地球が魔力を持つの?」

 当然、と言いたげに、

「魔力は科学的に感知出来ないから分からないけど、どんなものの中にも流れがある」

「流れ?」

「そう、そしてが滞れば、間違いなく何処かに歪みが出来る。だからそれを直すのも当主の役割になる」

 その話を聞いて祖母の事を思い出す。

(ばあちゃんもそんな事をしてたのかな?)

 そんな姿を見なかったのか見せなかったのか。

 祖母のやっていたこと。それを引き継いでいくことが出来るのか未だ分からないのに、なぜか動きたい、と思う。

(何でこんな風に思っちゃうかな?)

「で、魔法使いからして、僕は何からしたらいいと思う?」

「やっぱり土地の管理が最優先でしょ」

 そう即答して、立ち上がる。

「どうしたの?」

「すぐに行こう!」

 え、と言って時計を見れば午後七時。

 遅い、というほど遅い時間ではないが、活動を開始するにはやや遅い気がする。

「こんな時間から行くの?」

「まぁね」と言って背伸びをする。

「夜中に活発になる地脈もあるし、人の目に付きにくいしね」

 忠泰もその言葉を聞いて、「なるほど」と呟いた。

「じゃあ、すぐ行こう!」

「ちょっと待って」

「何⁉︎」

 浅葱はやや落ち着き無く、急かしてくるが、忠泰はなおも落ち着いてこう言った。

「晩御飯。食べてからでもいいでしょ?」

「あ、はい」と言って再び浅葱は座る。どうにも締まらないが、取り敢えず出来ることはありそうだ。

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