魔法使いのミッション

第25話

 ところで、くだんの天津は将棋対決の次の日にどこかへと旅立った。

 ついでに言えば、旅立つのが突然なら、それを告げるのも突然で、教えられたのも当日だった。

 夏とはいえ、山の中の朝はそれなりに涼しく、木陰にいれば寒さすら感じてしまう。

「でも、あさちゃんが来てくれるなんて嬉しいじゃないか」

 見送りに来た浅葱を見て天津はそんな事を言ったが、「ちゃんと見送らないと何をされるか分かんないしね」と、減らず口を叩いて、シッシッと、手で拒絶の意思を示す。

 忠泰は「なんだってそんな急に……」と、少し残念そうだったが、当然ながら浅葱はそんな事もない。

「ま、やらなきゃいけない事もあるんだよ」

 そう言って、デイバックを背負い直す。銃は流石にうまく隠しているが、それを差し引いても荷物がうまく収まるようには見えない。

 その身軽さから「まさか思いついたのも突然ではないだろうな」と考えているが、まあ、そう言った魔法を持っていると言っても驚かない。

「あさちゃんは魔法に関わって人生を送りたいのかい?」

 突然の質問に戸惑うが、気持ちは既に決まっている。

「そう、なら魔法を教えたいなら魔女の軟膏を使いなよ」

 力強く頷く浅葱に天津はこう言った。

「軟膏?」

 さらに聞こうとして、天津は口元に指を当てる。

「ここから先は自分で考えな」

 そこから先は「魔法使いになるんだろう」と言う言葉が隠されていた事を浅葱は感じ、何も言えなかった。

 何も言い返せずに黙り込むと、天津は忠泰にも向き直り、

「チュー坊は答えは見つけたかい?」

「はい」

 その表情を見て少し驚き、しかしすぐに満足そうに頷く。

「驚いたねぇ。そんなにいい顔で言われるとは思って無かったよ」

 だが、ここでさらに念を押す。

「あえて聞こうか、

「はい」

 即答とも言えるその速度に浅葱も傍で聞いていて驚かされるが、天津はやはり満足気に頷けば、その答えに何も言う事はない、と言う様に二人に背中を向ける。

「二人とも、頑張りなよ」

 大きく手を振りながら、天津は平城邸を後にした。

 その後姿を見失うまで見送った後に浅葱は大きくため息をついた。

「やっと、どこかに行ったよ……」

「浅葱。何もそこまで言わなくても……」

 子供っぽいのはわかっているが、どうも浅葱はそれを変える事も出来なかったが、もとよりそのつもりは無い。

「いいのいいの。あれは私にとっても、天津にとってもワイフワークなんだよ」

「ライフワークって……天津さんも?」

 怒られることがライフワーク? と忠泰が首を捻っていた。

「むしろあいつの方が私を怒らせて楽しんでるフシがあるけど」

 その言葉に「あぁ、ナルボド」と納得した様子。

 彼もそこそこ付き合いが長い様で、天津の性格と言うのを分かっている様だった。

「でも……」

「でも?」

「藤吉は天津さんから愛されてるよね」

 その事を心外と思いつつも、違うとは言えないだろう。しかし……、

「そりゃ、タダヤス君だってそうでしょう?」

「ま、確かにね」

 でもね、と忠泰はこう続ける。

「藤吉は何故か特別な気がするんだよ」

 浅葱にはそれの意味が分からなかったが、多分それは間違いないだろう。

 しかし、それが分かるのはもう少し先のお話。

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