第43話
今回の仕事は、七十五点。
それは、仕事の成果ではなく、どれだけ楽しめたかを、示す点数。
世界最高に近いとは言え、戦いに関しては素人の魔法使いと、文字通り素人の"魔法を知らない魔法使い"。
一方的な狩りになると思っていたが中々に楽しめた、と言うのがレイブンの素直な感想。
(あのトラップと煉獄の炎は凄かった。あれが、打ち消せないタイプの違う攻撃ならもう少し手こずったかもしれん)
とは言え、平城忠泰は絶命し、人の死に慣れていない年端もいかぬ魔法使いも最早戦闘どころではないようで、両膝をつき、項垂れている。
残った
それを考えてため息を吐く。
こんな魔法を使ってはいるが、人殺しは好きではない。
そもそも、彼の本来の目的は人の"死"を知ることで、"生"を知り、救うこと。
(思えば、遠ざかってしまったものだ)
だが、世界という大義のために人をこうして殺し続けた。
だが、時々思う。
自分は本当に何か救えているのか、と。
(おっと、いかんな。まだ、任務が完全に終わったわけではない。集中しなければ……)
そうして気づく。
「何だ?」
空気が震えている。
まさかと思って見てみるも、浅葱からは魔法を起動している様子は見受けられない。
(どうなっている? まさか、他に仲間がいるのか……)
そんなことを考えるも、それはとんだ見当違いであった。
「まさか……」
魔法ではないとするならば、
「これは、魔力そのものなのか⁉︎」
魔力とは、高位のエネルギー体である。
高位にある、とはひどく分かりにくい表現である。そこで、簡単に言い換えるならば人が認知出来ないエネルギーのことである。
だが、厳密に言えば、どんなエネルギーも認知出来ない物など存在しない。
例えば熱。
熱は簡単に皮膚の表在感覚を利用して感じ取ることが可能。
しかし、それが極端に少なかったならば?
恐らく、感じ取ることはできないだろう、
では、逆に考えてみよう。
もし、とあるエネルギーがバカみたいに甚大な量が放射されたのだとすれば、どうなるのか?
「あ、あぁあ」
浅葱は蹲ったまま頭を抱える。
「あ、あ、あ、あ、あ」
レイブンから、浅葱の表情は読み取れないが、さもひどい顔をしているのだろう。
「ッツ!」
そうしていると、右上腕に鋭い痛みが走るのを感じた。見てみればパックリと裂けていた。
「風……」
空気の震えが徐々に大きくなり、うねりに変わり、渦となる。その変化はあまりに急速であまりに大きい。
「ほう」
魔力だけでこの力。
数百年レベルの
『見くびりすぎじゃない?』
そう言えば、こんな事を言っていた。
今なら言える。確かにそうだ、と。
レイブンは藤吉浅葱の魔法使いとして優れているところは、驚異的な魔法の速さのみとばかり思っていた。
だが、魔力量は異常だ。
「これは、危険だ……」
もし、これだけの魔力を完全に解放し、たった一言で魔法が完成するとしたら、どれほどの事が出来るのか?
世界征服、どころではない。
ならば、
「粛清者として、ここで絶つ他あるまい」
再び、左手に力を込める。
それに反応した浅葱がこちらを向く。
それは、能面のように感情が消えていた。
「それで脅しているつもりかね?」
再び一歩前に出ようとした時、
「アアアアァアアァァアアァァアァァアアァアアアアア」
突如、両膝をついたまま上体を起こし、天を仰ぐ。
風の渦は最高潮に達し、竜巻と化す。
「アアアァァアァアアアアァアァァァアア」
さらに、大気が魔力を受け止めきれなくなったのか、ドカッ、と地が割れるほどの魔力が伝う
。
左手を突き出すと、感触があった。
だが、それは何に触れたのか?
風の力か、地割れの力か、はたまた空中に巣食う魔力か。
そんな事も分からないくらいに強力で、
完全に受け止められないくらいに強力だった。
「ガッ!」
何かに跳ね飛ばされる。トラックに轢かれたかのように派手に飛んだ。
空中でうまく回りながら、受身をなんとか取るも、無傷とはいかなかった。
肋骨が何本か折れているが、幸いにも動けないほどではない。
それに、相手も全く答えていないわけではない。彼女の何割かは分からないが魔力をある程度持って行かれたのだ、何もないはずもない。
「さて、これをあと何回繰り返せば私は勝てるのかね?」
そう言うと、二陣目の竜巻が巻き起こる。
そうして、再び激突が始まる。
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