第48話

 死神とは、先ほども述べた様に、ただいたずらに死をばらまくわけではなく、現世と死者の世界とのバランスを図る神様である。

 もちろんであるが、レイブンがどれだけ魔法を極めたとしても人間が神様を超える事はあっても神様になることなど出来はしない。

 とは言え、長い年月を積み重ねて完成させた死の魔法は、かなり完成度が高いと言っても差し支えはなく、ただの一度も殺し損なった事など無かったと言うのに。

「どうなっている?」

 忠泰の様子を見れば、精神的なショックを感じてはいるようだが、体調を崩しているようにも見えない。銃で撃たれたレイブンの方がよほど重症。

 間違いなく"死の魔法"を無効化したという証左。

「……」

 対して、ただ黙って忠泰は立っている。

 冷静……というわけでは無かったが、先ほど見せた激しい怒りも表面上は鳴りを潜めている。

 目の前で師匠が死んでいるかも知れないと言うのに完全に冷静でいられる人間はそうそういない。

「あなたは……藤吉を殺したんですか?」

 何とか平静を保っているが、心の中にうねる怒りの感情は冷静な仮面で覆っても隠しきれるものではない。しかし、余計な言い回しもないストレートな言葉は、僅かに恐れが含まれているのが分かる。

 答えはノー。

 そして僅かに逡巡する。

「あぁ、殺したよ」

 一気に絶望に突き落とす。

「……」

 その答えを聞いて、この世の終わりの様な表情を見せる。

 真実は違う。

 本当は、魔力を大量に殺したが為に魔力が欠乏しただけの話。半日もすれば復活する。

 だが、敢えてここで心を折る様に仕向けることで戦いを終わらせようとした。

 確かにただでさえ危うかった精神状態を崩すことに成功した。

 だが、この方法が本当に上策であったのかは、ひどく怪しい。

 心を折ったと思っていた少年は、瞬く間にレイブンの目の前にやって来て、


 ただ黙って右の拳でレイブンを殴った。


 バキ、という鈍い音と共にレイブンが後方へ仰け反る。

「ガハッ……!」

 しかし、足は後方へ退がらなかったのは流石と言うべきか。

「舐めるな!」

 ここからはレイブンのターン。

 魔力を込めた左手を突き出し、忠泰の体を狙う。

 殴った瞬間にすぐに動く事は出来ない。それは素人ならばなおさらで、ましてや牽制ではなく渾身の一撃。

 肉を切らせて骨を断つ。

 それが、レイブンが今まで行ってきた基本方針。

「今度こそ、終わりだ」

 そう言ったレイブンは左手を突き出された右手を掴み魔力を放出する。

 レイブンはその瞬間に口許が緩む。

 間違いなくやった。魔力に手応えが確かにあった。

 間違いなく殺害できた。その筈だというのに……、


「何が終わりだって⁉︎」


 再び何もなかったかの様に、忠泰は左手を再び殴りつけた。

 今度は踏みとどまれなかった。

(馬鹿な……)

 尻餅をついたまま動けない。肉体的なダメージなどどうでもいい。それよりも精神的なダメージが大きかった。

「どうして生きてる⁉︎」

 跳ねる様に起き上がり、再び魔力を込めて左手で殴り付けようとした。

 が、無駄な話。

 今度は全くひるむことなく殴りつけてきた。

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