第40話
レイブンの使う「不吉な気配」について、浅葱は仮説を立てていた。
この気配の特徴として最も不思議に思うところは、それをほぼ素人の忠泰が感じ取れるということ。
楢井川の河原で感じとった時も感じたこの気配。
「あれは多分、魔法で出した死の気配だね」
「死の気配だって?」
しかし、それをすんなりと受け入れることはできないようだった。
「僕にはそんな超直感はないよ」
「私にだってないよ。でも、本来の生命体が"死の恐怖"って言うものを持っている」
それはある種本能のようなもの。例え、比較的安全な社会での生活を貪って衰えることがあっても、完全になくなることなどあるはずもない。
「逆に言えば、私はおろか、魔力を感じ取れないタダヤス君やアキノリ君も本能で感じ取れるくらいに強力で濃密なのかもしれない」
「つまり……死の塊ってこと?」
「それが一番近いかもね」
そんなものに触れられれば一体どうなるのか?
浅葱にも分からない。分かりたくもない。
だが、分からないなりに考えた作戦が一つある。
それは、レイブンが左足を一歩踏み出した時、既に開始されていた。
「そこっ!」
浅葱の放った、パチンと小気味良いフィンガースナップで一陣の風が巻き起こり、砂塵が風に舞う。
「ほう」
「この程度で感心しないでよ!」
その声と共に鳴った二度目のフィンガースナップで、再び風が舞う。
しかし、今度は烈風とは違う。
風の槍。
音速に近いその攻撃は、まっすぐレイブンに向かって飛ぶ。
頭部を粉砕するような軌道を飛んだ槍をレイブンは首を僅かに動かして、なんとか躱し、さらに一歩進む。
「まだだよ!」
三度目のフィンガースナップでレイブンの右斜め後方からテニスボール程度の大きさの水球が現れる。
「行け!」
この掛け声で、水球からウォーターカッターのような超高圧の刃が一直線に飛んで行く。
後方からの攻撃なのに、どうやって把握しているのか、それをレイブンが左方向へ僅かに移動して躱す。
その間に更に一歩。
「もういっちょ!」
今度は、レイブンの足元が崩れた。
落とし穴。アリジゴクのそれに近いが、レイブンは飲み込まれる前に、地面を蹴って更に一歩。
「戦う前にあんな事を言っておきながら、容赦がない。命に関わるような魔法も混じっているが……」
「そうしたいのはやまやまですが、あなたなら撃っても大丈夫でしょう?」
魔法を使うのに忙しい浅葱ではなく、忠泰が代わりに答えた。
「違いない」
そう言っている間にも、浅葱のフィンガースナップは続く。
影のギロチン。石の
これが作戦。
触れられたら終わりだと言うのなら、触れられないように遠距離から広範囲かつ高威力で排除する。
だが、流石と言うべきか、その一つ一つを確実に躱し、着実に歩を進めていく。
「大丈夫かね。このままでは君らにすぐに追いついてしまうが」
この間にも、攻撃が止むことはないのだが、何でもないように躱している。
「そうなれば、こちらこそ容赦はしない。もう少しくらい本腰を入れて攻撃出来ないか?」
それは最早、処刑宣告。
レイブンと二人の距離は死の導火線だ。ゼロになれば死が撒き散らされる。
「本腰……ね」
だが、忠泰はその言葉をなぞるように言った。
「何かね?」
「え、いや。大したことじゃないんですが……」
「確かにそろそろだと思いまして」
その言葉に反応して浅葱が両手でフィンガースナップを鳴らした。
まずは右手。それは光の剣を呼び出す魔法。その剣は上半身と下半身を分断するように振るわれる一撃。
「⁉︎」
レイブンはそれを何とか身体を屈めて躱す。
そして左手。それは鉄の
「何と!」
初めて見せる驚きと、強い関心がそこにあった。
「成程。よく考えられている」
「あなた、私たちを舐めすぎじゃない?」
未だ、余裕に語る姿を見て、呆れるように言った。
「そうかもしれんな。正直に言えば、ここまでやるとは思わなかった」
その
「まさかですが……」
「これで終わりとは思っちゃいないでしょうね!」
二人はその感想に納得しないかのように、強く言った。
「我が意のままに世界よ歪め!」
その魔法で、世界は紅蓮に染まる。
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