魔法使いになるということ
第51話
浅葱は微睡んだ意識の中で忠泰の言葉を聞いた。
「たった一人を救えなかった
考えてみれば当たり前なこと。
だが、何故かその言葉は心に沁みた。
何故そんな風に思ったのか、浅葱は咄嗟に分からなかった。
耳障りの良い言葉で、表面をなぞるだけのようなそんな言葉であったはずなのに。
それを考えようとして思考が上手く働かないのが分かる。
(私……)
その理由すらも上手く思い出せない。以前に似たようなことがあったような気がしないでもない。
何処か意識がぼんやりとして、明滅している。
目は開かなくて何も見えない。
神経が外れてしまったかのように指一本動かせない。
(あ……あ……)
しがし、ゆっくりとであるが、そんな中でも徐々に思考は形作られていく。
いや、そんな風に自分自身をより意識できるそんな中だからこそ、その答えを得ようとしているのか。
(あぁ……そうか……)
そして悟った答えは、あまりに簡単で、当然のこと。
(私は、きっとこう言える自分でいたかったんだね)
勘違いをしていた。
科学の発展とともに魔法は滅びの道を歩んでいるのだと。
何故そんなことを思ってしまったのか?
科学が発展する事と、魔法が廃れることに何の因果もない。
魔法とは、大衆の全てを救う独善的で一方的なものではない。
むしろ、魔法は正義では救えなかった、取りこぼした弱者を拾い上げるための技術。
魔法使いは、いつだってほんの小さな世界を守ろうとしたのだ。
(それこそが魔法の原点。魔法使いの存在意義だっていうのに……)
だとすれば、魔法は決して廃れない。
否、脚光を浴びなくとも、彼らが持つ大義が損なわれることは決してないというのに……。
(全く……、何だってそんなことを思っちゃったのかなぁ?)
廃れたのは結局、彼らの驕りがあったからではないか。
(お母さん……)
母の教えを今更ながらに理解した気がする。
母は浅葱の能力に限界を感じていたのではなくて、魔法に限界があるからこそ別の何かで埋めようとしていたのかもしれない。
うっすらと目が開くと、忠泰がレイブンの顔面を殴り飛ばしているのが見えた。
どう見ても人を殴り慣れていない不恰好な姿であったが、浅葱にはそれから目を離せなかった。
「タダヤス君……」
何とか振り絞った声も届かない。もとより届かせるつもりで発したわけでもない。
思わず、といった感じて溢れ出てしまった感情だったのかもしれない。
(あぁ……)
納得できた。
魔法使いらしくあろうとした少年は、魔法を使えなかったとしても、何処までも真っ直ぐて純粋な魔法使いだった。
そんな人間に、魔法使いの信念が足りない自分や、どんな理由であれ人殺しの道具に貶めたレイブンに勝てる道理があるはずない。
(人から何かを学ぶ……か)
(タダヤス君はやっぱり私の先生だよ)
そんなことを考えながら再び
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