第36話
粛清者。
新しい言葉は忠泰の想像を遥かに超えるくらいに物騒だった。
「武闘派って……本来魔法使いは人を傷つけないんじゃ……」
「それは見解の相違というものだよ。平城忠泰」
自分の名前を知っていることにドキリとする。自分の事などとっくに調べが付いているという事か。
「掟には、人を殺めてはならない、と言うのがあるがね。それは、果たして何の為にあるのだと思う?」
その言葉に耳を疑う。
「何の為って……人を殺してはいけないなんて当然じゃないか!」
「それもまた、一つの
意外にも目の前の男は忠泰の答えに一定の理解を示した。
ただし、あくまで一定。
「だが、答えとして浅いぞ、平城忠泰。試験であれば部分点はもぎ取れる程度だろうが、正解はもらえない。正解とはしっかりと理解できている事が証明しなければ成立はしないのだよ」
忠泰の意思は尊重しつつも、答えを丸ごとに否定した。
「人が
「だったら……」
「だが、もしも魔法使いが虐殺を始めたらどうするかね? 未知の力で人が死に、強大な魔力で命が壊され、挙句は証拠が無いなどという理由で裁けない」
そして、彼が出した答えが、
「そんな時に我々はどうするか。決まっている。代わりに誰かが粛清するしか無いでは無いか」
その答えだったというのか。
「レイブンさん……でしたね。あなたの言い分は分かりました」
ただし、忠泰も遠慮はしない。
「だったら、秋則は? コイツがその一角獣の角を持ってた事に問題があるっていうんですか?」
「確かに一般人がそれを持っている事には何の咎も無い」
「だったら、これを渡せばみんなを助けてくれるのかな?」
「藤吉⁉︎」
「約束できるっていうなら、そっちの交渉に応えることも出来る」
なおも浅葱に詰め寄ろうとすると浅葱は耳元で小声で囁く。
「タダヤス君聞いて、アレと戦うのは無謀過ぎる。どんな魔法を使うのかは知らないけど、私達じゃ多分勝てない」
彼女の視線からは忠泰の顔は見えないが、息を呑む声が聞こえた。
「魔力とか人数とかじゃなくて場数が違う。例え私達が十人いても勝てない」
「まさか……」
「いい見立てだよ。藤吉浅葱」
小声であったにもかかわらず、まるでしっかりと聞こえていたかの様な反応を見せた。
「そりゃどーも。それよりもさっきの質問どうなのかな? そっちとしても悪い話じゃ無いでしよ?」
浅葱は賞賛よりも質問の答えを欲していた。
「あぁ、それなら……」
だが、
「応えられんな」
当然の様にそう言うと、戦意を撒き散らすのと、同じ様に左手の手袋から不吉な感じが溢れ始めた。
「どうして? 私かタダヤス君のどっちかが禁断に触れてしまったから?」
「秋則と言ったか? その少年だ」
思いもしない矛先に浅葱よりも忠泰が慌てた。
「さっきは一般人なら咎は無いって」
「それが本当に一般人ならな」
「一角獣の角などという危険物を代々にわたって保有している。だとすれば、魔法使いの家系かもしれないだろう。だとすれば十分に粛清対象だ」
こじつけだ、と浅葱は思う。忠泰もそう思っただろう。
よく見れば、側にいる秋則も不安そうに忠義を見ている。
「なるほどね。なら、私にできるのは一個だけかな?」
対して、浅葱はチョークを取り出し右指でつまむ。
「とりあえず逃げてみんなでどうするか考えるよ」
「ほう?」
その反応を楽しむかの様に唇が緩む。
「まだ、そんな事を言うのかね。言ったはずだぞ。逃がしなどしないと」
「『倒されるなんてさらにありえん』とも言ってたよね」
チョークの先に魔力を集める。
「いや、確かに貴方を倒すなんて大きい事言わないけどさ……」
「逃げられないってのは、見くびりすぎでしょ」
そう言って魔法を展開する。
「我が意のまま世界よ歪め!」
浅葱の聞き慣れた声を感じる間もなく、忠泰葉の視界が歪むのを感じる。いや、歪んだのは世界の方か?
全ては一瞬。だが、その一瞬の間に見ていた世界は完全に歪んでいた。
「ここって……ヤス兄の家?」
「あぁ、僕の家だね」
正しくは平城邸の庭だった。
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