第31話
取り敢えずそのポイントに最も近いと思われる河原に来た。
最近は雨も少なく川が穏やかなのが良かったようで、今現在、ペンダントが下流に流されている様子はない。
だが、そこそこの水量が常にあるこの川は流れが速い場所もあるので完全に安心も出来ない。
同様の理由で潜って捜すのも危険すぎる。
秋則も気が気で無いのか、そこらの岩に登り、周囲を探す。
「さて、魔法使い。ここからどうすんの?」
「参ったなー。アキノリ君のイメージから、この辺なのは分かってるけど、川の中だとお手上げだよ」
その言葉に忠泰が口を開く。
「やっぱり、あれも魔法なんだね」
「そ、イメージを読み取る魔法ってとこかな」
何でもないように言うが、今の科学じゃこんな真似はできないだろう。
「でも、今の私は何もできないよ」
「なんか無いの? 例えば水の中に潜るとか」
「姉ちゃん! 川の水を割るとか出来ないの?」
「いや、浅葱でもそりゃ無茶でしょ」
「え、出来るよ」
何でも無いような浅葱の言葉に忠泰は「ウソ! 出来るの?」と驚嘆するが、実はそれほどの事では無い。そもそもモーセと呼ばれた預言者は、海を割ったという伝承もある。
「だったらさ、それやってよ姉ちゃん!」
だが、彼には難しい話もしれないが、「出来る」と「やれる」は違う。
「そうか、前に行ってた"掟"だね」
魔法使いは可能な限り魔法の存在を隠匿しなければならない。
「そう。もしここの川を堰き止めたら、間違いなく大騒ぎになっちゃうよ」
水を割るよりも、それを他人の目に付かないようにする事の方が遥かに難しい、とはどんな皮肉か。
「私の魔法は何でも出来る代わりに、二つ以上の事は同時に出来ないんだ」
要は、万能で応用性も高いが、実用性がさほど高いとは言えなかった。
「補助の魔導具があれば出来るけど、ここじゃ持ち合わせも無いし……」
「なら、話は簡単じゃ無いか」
「?」
前々から答えが出ていたかのように忠泰が言ったが、浅葱は全くどうにも出来ない。
「藤吉が僕に潜水の魔法を使って、僕が楢井川を潜って探せばいい。魔法は使えないけど、目には自信があるからきっと見つけられるよ」
そんな事を言い出した。
「えっと……本気?」
「? 何か問題があるの?」
「いや、出来るけど……。タダヤス君を危険な目に遭わせてしまうかもしれないよ」
その為には、浅葱と魔力を常に何らかの形で
「藤吉なら大丈夫でしょ」
「タダヤス君……⁉︎」
「藤吉は師匠にして生徒なんだ。だったら弟子にして先生の僕としては信用してるんだよ」
はあ、吐息を吐いた。
それと同時に肚を括らねばならない。
「そう言われちゃ、私も"難しい"なんて言えないね」
そう言ってペンダントを忠泰に手渡した。
「絶対に失敗させない。だからこれを絶対に離さないで」
「これって、ダウジングに使っていたヤツだよね」
クリスタルで出来たペンダントは浅葱の魔力を込め続けた
何年も肌身離さず持ち続けた事で、彼女自身の魔力を通じて縁が強固に結ばれた。これならば多少離れても魔力の供給が途切れる事は無いだろう。
「分かった」と言って、忠泰はペンダントを首から下げる。
右手を繋ぎ、魔力を流す。
「我が意のままに世界よ歪め」
淡い光が全身を包む。もう大丈夫、と浅葱が言うと忠泰は川へ向かって走り出す。
「秋則。危ないからここで待ってろ」
「え?」
秋則はキョトンとして見ていると、忠泰は川に飛び込む。
「え? ちょっ、ヤス兄!」
なるべく浅葱は縁が途切れ無いようにする為に川辺に近づいた。
「頼んだよ。くれぐれも離れないようにね」
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