第32話

 忠泰も蔵守で育ったのだから、夏になれば楢井川では毎年のように遊んでいる。

(さて、潜水魔法があるとは言え急がないとね)

 潜水魔法。

 こうやって使ってみればかなり便利だと忠泰は思う。息継ぎも必要なく、長い時間探すのに向いている。

 だが、泳ぐのは自分の体力だし、水の冷たさはどうにもならないのは分かった。

 これでは長時間延々と探すのは難しそうだ。

(取り敢えず浅い所を探すか……)

 浅葱と言っても二メートルの水深はあるので、どちらかと言えば深い所だが、まだ、この辺りは流れがあまり無い。

 水も澄んでいて数メートル先まで良く見える。しかし、目的のものは見つからず、ゴミがちょくちょくと溜まっている位だ。

 十分程度見て回ったが、結局流れの少ない部分にはそれは落ちていなかった。

 となれば……、

(残りは奥の方が……)

 しかし、浅葱には心配をさせない為に言ってなかったが、ここから先は地元の人なら近づかない。

(毎年、一回は死亡事故が起きてるからなぁ)

 そう、この辺りは流れが速い上に、一定の流れではなく、底に引き込まれるような流れもある。

 万が一、その流れに捕まれば溺死は間違いない。

(どうしようか……)

 このままここにいても仕方が無い。

 普段の彼ならば絶対にしないだろうが、忠泰は奥に踏み込もうとして……、

(‼︎)

 川底へ引きずり込まれる流れに捕まった。

 捕まる前にしていた覚悟など吹き飛んだ。今まで引きずり込まれた経験など無いのだが、そこまでの物とは思っていなかった。

 魔法使いになったものの、成り立ての上に魔法を使えない忠泰には魔力と言うものは分からない。だが、それが余計に恐怖を煽る。

(くそっ、どこまでなら大丈夫なんだ? 岸はどっちなんだよ!)

 今までの経験を活かして姿勢を何とか安定しようとするが、どっちが水面か川底か? 岸なのか

 深みなのか? それすらも分からない。

 普通ならこの地点で溺死していても不思議じゃ無い。

 だが、このパニック状態でこのまま流されれば、絶対に魔力の供給範囲内から出てしまう。

 そうなれば、どっちにしろ溺れるだろう。

(甘かった……!)

 浅葱が躊躇った時、もう少し考えるべきだった。使

 凄い魔法に見慣れつつあったせいか、自分自身の魔力など無いのに、魔法というものを過信、いや盲信していた。

 所詮は人の使う業といことか。

 死の恐怖すら感じた時に、目の前にペンダントが現れる。急流に呑まれたせいか、不規則に動き続ける。

(藤吉!)

 そう心の中で叫んで忠泰が身体の力を抜いた。冷静になれ、と心に念じて無駄な体力を奪われないようにする。

 死の恐怖が頭をよぎった時にふと思いついた。

(僕が……死ぬ?)

 そんな答えに、水中にも関わらず、溺れるかもしれないのに、口元に笑みが浮かんだ。

(何を言っているんだ僕は……)

 そんな事あるはずがない。

 藤吉が絶対に失敗しないと言っていたのだ。浅葱を信じると言ったばかりではないのか。

(あんな啖呵を切って、ダメだった何て言えないよ!)

 そうしてゆっくりと目を開けると、先ほどと同じようにペンダントが目に見える。

 いや、先ほどと違って、

(これって……)

 光ったペンダントの向こう、流されそうになりながら、何とか見つめた視線の先には……。


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