第7話
浅葱は説明と言うか、手ほどきと言うか、そう言ったものをものを忠泰にしながらも脳ミソは全く別の事に働いていた。
(今日の宿どうしよう?)
それこそが浅葱にとって火急にどうにかしなくてはならない難問だった。
目下家出中の身としては、家に帰るなんてものは論外だ。しかし、こんな所で知り合いの家などあるわけもなく、夏とはいえ野宿などか弱い乙女のすることではない。
「自分でか弱い乙女って」とでも言いたげな視線で白猫が浅葱を見つめていた。
足で白猫を蹴飛ばして、壁に掛かった時計を見る。
時間は既にもう四時を大きく回って居る。完全に平城セツを当てにしていた浅葱はここから先の事を全くと言っても良いほど考えてはいなかった。
「……じよし」
故あってか、浅葱は最初の一言を聞き逃した。
「藤吉?」
「え?」
「大丈夫?」
ふと、目を向けると忠泰が心配そうに声をかけた。「大丈夫だよ」と言うと彼は少し安心したように表情を落ち着かせて口を開く。
「一つ聞いても良いかい?」
「どうしたのタダヤス君」
「さっきウィッチとウィッカのことを教えてくれたけどさ。うちのばあちゃんはウィッカってことで良いんだよね」
「? そりゃもちろん。そうでもなきゃワザワザ弟子入りになんて来ないよ」
今ではナンチャッテ当主が跡を継いでいるようだが、本来の平城家と言うものは、最高級の家柄でその血が混じるだけで大成間違いなしとすら言われているほどの名家。
そんなことは魔法使いからすれば歴史上の偉人の略歴を述べるよりも簡単な当然の知識。
「そっか……。まぁ、あの人が呪いとか遠回しな方法を使うようには見えなかったけどさ」
何も知らされぬ環境での事だから彼に対して怒りを感じることはない。むしろ、それすらも知らないカタチだけの当主に憐憫すら覚える。
しかし、それは決して魔法を知らないことではなく、先代が受け継いだものを何も
魔法使いにとって、血は力、血は絆。つまりは受け継ぐものを大切にしなければ力は得られない。だから、魔法使いは"つながり"を大切にするのだ。
「ねぇ、どうしてあなたはお婆さんから何も聞かなかったのに当主になろうと思ったの?」
魔法使いは持ちうる全てを伝える。それは己の全てを遺す、と言うだけではない。これから伝えるものは己の全てをだけではなく、今まで受け継いだ全てでもある。だから、大事でもない人を当主にすることも、当主に全てを伝えずに終えることも
浅葱は正直にいえば、魔法使いの行き過ぎた血統主義に対してあまり良い感情を持っていないが、先代が遺した功績にも、功績を遺した先代にも敬意と言うものを持っているつもりだ。
だからこそ、セツという大魔法使いが行った暴挙ひ苛立ちすら覚える。
浅葱は忠泰というよりも、セツに対して不可解さを感じていた。
「確かに魔法なんて知らないし、それを差し置いても当主なんて何するかわかんないけど……」
忠泰は特に深く考えることなく、
「僕は、ただ恩を返したいと思ってたんだよ」
ただ思ったことを口にした。それは特別なことではなく、ただ普通なことだった。
「恩?」
浅葱は想定していた言葉とは多少異なる答えのニュアンスが違う気がした。つながりという縁ではなく、それよりも深い恩。
それが悪いという訳ではないが、家族に対してのものでは無いように思える。
「藤吉。少しいいかな」
少し深く聞こうとした時、忠泰が口を開いた。
「魔法のことを教えてもらっていいかな?」
「魔法のこと?」
それはつまり……、
「魔法使いになりたいの?」
「そこまでじゃないけど、ばあちゃんとの約束だから。当主代行になるって。今までどうすればいいか分からなかったけど、魔法使いの君に聞けばよく分かると思って」
ふむ、と考え込む。
正直、手助けしたいと思う。だが、魔法使いが魔法を教えるという事は、目の前の少年の行動に浅葱が責任を持つということ。初対面の人間にそこまでの信頼を預けることは簡単ではない。
浅葱は魔法使いとしてのプライドを持っている。中途半端な真似をして自分の名が貶められるのは望むところでは無い。
そう決意して「悪いんだけど……」と切り出そうとして、
「しばらく泊まってくれてもいいから」
「引き受けましょう‼︎」
数秒前の決意とは百八十度異なる事を口走っていた。
並々ならぬはずの決意も
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