魔法を知らない魔法使い
第8話
ウィッカとウィッチについてまとめてみれば、彼女が言うように魔法使いの中で良いのがウィッカで悪いのがウィッチ。
だか、そこまで極端なものではないらしく、ウィッチの中にも善行で人を救う者もいるし、ウィッカでも掟を破って悪に走る者もいるとのこと。
更に言えば、ウィッチは黒魔法を使い、ウィッカは白魔法を使うらしいが、どちらも人の為にも人の害にもなると、浅葱は説明くれた。
その話を聞いて、忠泰は思う。
結局の所、魔法使いである事や所属が違うという事が、人間性に深い関連性は無い、という事を。
忠泰の朝は結構早い。
夏休みのど真ん中だと言うのに朝五時には起床し、五時半には身仕度を整えて家からさほど離れていない墓地についていた。
どういう因果か知らないが、今日は祖母が月命日。彼は月に一度の月命日に祖母の墓を参るようにしている。
祖母が亡くなってから半年だか、既に習慣付いていると言っても過言ではない。一度休めばきっと落ち着かなくなるのではないかと忠泰は思う。
だが本音を言えば、こんな気持ちでこの場所に来たいとは思わなかった。
藤吉浅葱との
「何で黙ってたんだよ。ばあちゃん」
花を持ち、バケツを持って、平城家の墓の前に立ちながら問いかける。
だが、そんな事は分かっている。自分は孤児で正統な平城家の跡継ぎではないから何も伝えなかったのだろう。
「何で僕を拾ったんだ」
浅葱が教えてくれた。魔法使いは血の繋がりを重んじると。そうして後世に力を伝えて行くのだと。
彼女は忠泰が孤児である事を知らないが、それでも思うところがあったのか、彼にに気遣って敢えてはっきりと言わなかった。しかし、その態度が余計に感じさせるのだ。
平城忠泰と呼ばれた子供を拾わなければ、先代を裏切る事にはならなかったのに。
墓前に屈んで墓石を雑巾で磨いていく。
いつもなら何も考えずにいられる時間だか、今日はついつい余計な事まで考えてしまう。
「そこは居心地が悪いんじゃないか?」
裏切った先代達の眠る墓と一緒に眠るとはどんな気持ちなのか。自分はかなり残酷な事をしてしまったのかもしれない。
ひょっとしたらこの場所から移した方が、祖母のためになるのかも……とか考えながら、花を活けようとして、ふと気付く。
「この花って……」
いつも忠泰は朝早くにここに来る。学校のある日でも、休みの日でも、雨の日でも、雪の日でも。
だが、いつ来ても自分より先に来て花を飾ってある。
およそ、この墓場には似つかわしくない明るさとは異なる赤く派手な花。
この花はいつもくる度に咲き誇っていて、それで気になって調べてみれば、簡単に答えは見つかった。
ゼラニウム。またの名を
その花を毎月欠かさず、夜が開ける前に祖母の墓前に捧げている。それは一体どれほどの負担なのか想像に難くない。
「どうしてそこまでして……」
そんなことは花の主に会ったこともない忠泰には分からない。
ただ、セツは庭いじりが趣味であったが、ゼラニウムのような派手な花ではなく、どちらかと言えば百合や菫などの大人しい色調の花を好んで育てていた。
その花の花言葉は、真の友情。
ひょっとすれば、それを伝える為にまだ見ぬ誰かはその花を贈っているのか。
ため息をついて持ってきた花を飾る。
「ばあちゃん。僕はどうしたらいいかな?」
水鉢を新鮮な水で満たし、持ってきていたを供え物を差し出す。それは彼女が生前の好物の天福堂の煎餅。
それを差し出し、両手を合わせても答えなど出るはずもない。
「僕はやってみるよ」
代わりというわけではないが、平城忠泰は決意を述べる。
「ばあちゃんが言ってた"当主になる"っていうのがどういう事が分かんないけど、今はやってみる。魔法使いになってばあちゃんのようになってみるよ」
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