第34話
目の前に現れたのは、喪服を纏った若い男。
しかし、天津ほどでは無いにしても、その喋り方は歳に似合わぬ厳格さがあった。
黒い髪に、黒いスーツに、黒いズボンに、黒い靴。しかもその黒は浅葱の髪と違って、色艶を感じられない、深く昏い黒。
対して肌は真っ白だが、浅葱のような透き通るような白さではなく、どこか病気のような不健康な青白さだった。
(こいつ……)
忠泰は魔力など分からないし、出逢った魔法使いもせいぜい二人で、セツを入れても三人程度。
だが、忠義でも分かる。
こいつは魔法使いだ。
目の前の異様な雰囲気を醸し出す人間が、一般市民であったなら、そちらの方が信じられない。
「えっと、何か用ですか?」
「何と聞くかね? 魔法も碌に知らない魔法使いよ」
何だか会話が成立しているようで成立していない気がする。
「ねぇ、藤吉。この人は何の用で来たんだろう?」
堪らず、浅葱に聞くも浅葱からも返事は無い、
黙ったまま険しい顔をしている。
「藤吉?」
「え、あぁゴメン。聞いてなかったよ。何?」
どこかいつもと違う浅葱に忠泰は怪訝に思いつつももう一度声をかける。
「え、いや、大したことじゃないんだけど、この人何しに来たのかなぁって」
「本人が目の前にいるなら、
自分を除け者にされた様に感じたのか、どこか面白くない様子で言った。
そう言われれば確かにそうだが、さっきはちゃんと返事しなかったのになぁ、と理不尽に思わなくもない。
「えっと、じゃあ貴方はここに何をしに来たんですか?」
言われた様に聞き直す。
「決まっている。それを回収に来たのだよ」
そう言って人指し指を向けた先にあるのは秋則が落としたペンダント。
「こんなのを回収してどうするんですか?」
文字通り命をかけて回収したのに、忠泰からすれば当然の憤りを目の前の男は鼻で笑って相手にすらしない。
「『こんなもの』か。やはり、君は魔法使いとしてふさわしくないようだな」
「……初対面にしちゃ、礼儀が出来てないですね。そっちは人間が出来てないんじゃないですか?」
そんな、露骨な皮肉に目の前の男は僅かに眼を細める。
「いや、いいさ。素人の言葉をいちいち相手にしていては時間の無駄だ。君なら私が言いたいことを分かっているのではないかね?」
そう言って忠泰の隣にいる浅葱の方に向き直る。
「藤吉?」
黙ったままの浅葱に声をかける。
「タダヤス君、アキノリ君。聞いて」
「うん」
「何? 姉ちゃん」
そうして浅葱の声を聞こうとして、耳に意識を傾けると、
「アレはヤバい。ペンダントを渡そう」
そんな耳を疑う事を呟いた。
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