第71話 飛鳥の評判と、対する富美の思い。
「……」
「富美。どうしたの? ネットを見て顔色が悪いけど」
「……飛鳥さん。すごく、叩かれてる」
「あー。その流れね。確かにまだあるわね」
松垣家が裏側に立ったことで、記者が武器を持ち出して扉をぶち破るに至った話だ。
もう、松垣家がその件に関してバックについていないので、『警察がきたら普通につかまる』ため、張り込みはほとんどなくなっている。
もちろん、何かネタをつかみたい人はいるので、記者が時々張り込んでいることはある。
真正面にコンビニがあるので食料には困らない。ということもあるが。
しかし、気になるほどではない。
実際、才華と富美は飛鳥の家のリビングで話しているが、『普通に入ってきた』ので。
「確か、赤色グループにだけアイテムを流すんじゃなくて、ほかにも出せって話よね」
「うん。企業の独占だ。依怙贔屓だって批判されてる」
「世間だとそういわれてるわね……で、それに対して、赤色グループではどんな話になってる?」
「え?」
「赤色グループにも掲示板はある。しかも、全員が本名で書きこんでる。ちょっと覗いてみましょ」
才華がスマホを操作して、赤色グループの掲示板にたどり着く。
検索は『槍水飛鳥』と『批判』くらいでいいだろう。
早速、世間の動きに対して内部の人間がどう思っているのかのスレをいくつも見つけた。
「す、すごい……」
「で、ざっと見る限り、どう?」
「……結局飛鳥さんがアイテムを世に出し始めたとしても、機会の公平性を担保するならオークションに出すしかないから、手に入れられるのはお金持ちだけ。一般人が騒いでいるけど、それは飛鳥さんを動かしたい大企業が裏で扇動してるだけだって」
「まぁ、珍しい話ではないわね」
SNSが発達している時代だ。
多くの人間が自分の意見を発信できる時代であり、それに対応できない有名人は、スポンサーが離れていく。
「もっとも、飛鳥は気にしないけどね」
「どういうこと?」
「飛鳥は『スキル』でこれほどの強さを持ってる。そしてその力は、社会的なサポートがあって成立するものじゃなくて、飛鳥だけで完結してる」
「大企業からもらうアイテムで活躍してるんじゃなくて、飛鳥さん自身の力」
「そうよ」
ダンジョンに潜れば、様々なアイテムが手に入る。
その中には『インゴット』もあり、強力な装備を作ることは可能だ。
そしてそれらの装備は企業の所有物であり、契約している探索者には貸し出しているだけ。となっていることがほとんど。
そうした装備に依存して活躍している探索者は、『社会的な評判』も必要になる。
装備を使っているため広告塔として扱われるパターンもあるが、不祥事によって評判が下がったら、『信用』にかかわるのだ。
何故なら、今まで信用していたからその企業にしか目を向けていなかっただけで、他を見ればいくらでも装備を作っている会社はある。
動画サイトを見れば、『いろんな企業の武器を比べてみた』といった動画もたくさんある。
そういう点で、振る舞いには気を付ける必要がある。
しかし、飛鳥の場合はそうならない。
スキルによって武器を生み出せるため、強さの根本が自己完結している。
そのため、『実力』と『評判』が因果関係にならない。
「加えて、期待に応えるのは『趣味』でしかないと言い切るその精神性もある。赤色グループにかかわっていくのは『覚悟』だけど、世間の期待に応えるのは『趣味』っていうのが、飛鳥の主張だから」
「覚悟と、趣味」
圧倒的なアイテムの数々を赤色グループの外に出せば、確かに『探索者としての期待』に応えられる。
だが、飛鳥はそうはしない。
期待に応えるのは義務でも責務でもなんでもない。
ただ、応えたい奴が応えればいい『趣味』でしかないから。
それに付き合っていては、自分の覚悟……赤色グループを守っていく自分との約束を破ることになる。
「これから飛鳥に関して何かを言われることがあるかもしれないけど、関係ないって突っぱねたらいいのよ。私は考えるのはやめたわ。だって、私があれこれ悩んだところで、飛鳥を変えられるほど迷惑をかけるなんて無理だもん」
「それは、そう」
飛鳥は最強の『後出し』を使える理不尽の権化のような存在である。
そんな存在を相手に、その主義を変えさせることなど不可能だ。
今のままでいい。飛鳥がそう思ったなら、それで話が終わるからである。
「悩んでいても仕方ないし、次にダンジョンのどこまで行くか考えましょう」
「うん!」
大好きな人が批判されていたら、嫌な気持ちになる。
ただそれと同時に、飛鳥のような絶対的な強者は、アンチを無視してもデメリットがないというのが現実である。
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