第2話 美少女メイド。早乙女八重

「タイミングが悪いです。飛鳥様」

「仕方ないでしょ。コンビニから帰って十分後に、八重やえが帰ってくるとは思ってなかったんだもん」


 だらっと……いや、だらっっっっっっとリビングでテレビを見ている飛鳥のところに、一人の美少女が歩いてきた。


 すごく端的に言えば、艶のある黒髪を長く伸ばしたクールな印象の美少女。

 早乙女八重さおとめやえ


 まず間違いなく芸能人になったら売れるであろうその美貌と、十九歳と言う若さでありながらも芯のあるクールな印象は、それだけで映える。


 加えて、特に改造のない露出をおさえたメイド服の上からでもわかる抜群のプロポーション。

 明らかに胸囲は『F』に到達している。


 それに対して。


 飛鳥は身長は175センチとそれ相応にあるが、体つきは中肉中背といって差し支えなく、覇気のないボケっとした顔をしているため、隣に来るとかなり浮く。


「ところで、どんなニュースを?」

「んー。まあ、普段と変わらんよ。この近くにある偏差値の高い探索科高校……『六車高校』の卒業生が、Aランク探索者になったとさ」

「Aランクですか……」


 ダンジョンは全て100層構造とされている。


 それに挑む探索者たちはランクで区切られており。


 S 51~60 人外

 A 41~50 天才

 B 31~40 上級

 C 21~30 中級上位

 D 11~20 中級下位

 E 1~10  下級

 F 新人


 となっている。

 51から先に挑むのが『人外』と称される者たちであり、言い換えると、人間が努力してたどり着けるのは50層とも言い換えられる。


 とはいえ。


 Aランク探索者に昇格ということは、40層にボスを倒し、『40層転移スポット』が使えるようになったことを意味している。

 これは非常に大きい。

 各層に転移スポットがあるが、これは各層のボスを倒すことで、その階層に転移できる『転移の柱』が置かれている。


 この転移の柱があるため『日帰り』が可能であり、学生であってもある程度の深いところから、学校に通いながらも魔石を手に入れることができるのだ。

 その努力の結果という事なのだろう。


「しかしまぁ……学校を賛美する一方で、中卒探索者に対しては批判が凄いな」


 少しスマホを見れば、記事は様々だ。

『冒険科高校卒業生、ダンジョン攻略率90%達成の快挙!』

『無計画な挑戦でリスクを増大させる『自己流冒険者』たち』

『冒険教育の重要性――学歴のない冒険者の影響を検証』

『プロの冒険者が語る、自己流冒険者の恐ろしさ』

『命を軽視する無責任な挑戦――またも中卒冒険者が事故』


 学校に行っていい教育を受けて、優れた探索者になろう。

 学校に行かず自己流でやっていると、大きな損失につながるよ。


 そんな記事ばかりだ。


「当然でしょう。現政権は、教育現場を広告塔にして支持率を維持しています」

「俺自身は、別に学校になんて行かなくても強いけどさ。そういう『学校に行ってないけど強い』とか、『強い奴が見切りをつけて退学する』っていう事態を避けたいんだろうね」

「強い探索者が教育現場を見限ると、教育現場を広告塔にしている現政権にとって危険ですから……ところで、飛鳥様は、探索科学校についてどう思っていますか?」

「……」


 八重に言われて、少し考える。

 ただ、本人にとって、難しい問題ではないようで。


「技術は、通ってないと閲覧できない資料もあるし身につくと思う。強くは、なれないよな」

「そうでしょうか」

「自分の思いや現状を伝えるのが不得意だけど、才能がある。そう言う探索者が本当に強くなれるか場所かって言われると、俺は首を横に振るよ」

「なるほど」

「そう言う奴は、学校と関係なく、ダンジョンに潜って強くなるさ」

「そう言うケースもあるでしょうね」

「ただ……」

「ただ?」

「人間は社会性の生き物だ。『成績表』という形で数字が出る教育現場は、子供を煽るのに適してるでしょ」

「もっと簡潔に」

「人間っていうのは、大人が思っているよりも、『強制』されないと動かないってことだよ」


 訓練も、人との付き合いも。

 自分のこれからのための『何か』を握っている相手から強制されて、初めて動くものだ。


 なんなら思い出作りだってそれに該当する。


 学校に通わなくとも、SNSによって風潮が作られて、空気によって強制されることはある。

 だが、それすらも、学校に通って身につくものだと飛鳥は思う。


「要するに、飛鳥様は社会性が低いという事ですね」

「否定はしないけどストレートすぎない?」

「事実でしょう」

「事実だね」


 否定する要素は一つもない。

 ただ、それを直球で言われると、なんだか『うっ』となるのだ。


 要するに、『うっ』となる程度の社会性はあるという事だが。


「……んー。ん? ダンジョンの生配信か」


 動画配信サイトで、『ライブ』のアイコンを発見。


「最近は多くなりましたね」

「凄い配信者がいるからね。天才が突っ走った道は通りたいもんだよ」


 飛鳥はボーっとスマホを見ていたが……。


「……八重。ちょっと行ってくるよ」

「畏まりました」


 何かに気が付いたようで、ソファから重い腰を上げた。

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中卒探索者のスローライフ ~基本はダラダラですが、時にダンジョンでグングニルをぶん投げます~ レルクス @Rerux

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