中卒探索者のスローライフ ~基本はダラダラですが、時にダンジョンでグングニルをぶん投げます~

レルクス

第1話 中卒探索者

 ダンジョンが出現し、魔力を獲得して半世紀。


 挑む探索者と、それを育成する『探索科学校』の設立は、むしろ当然の流れだ。


 ダンジョンに入るとモンスターに遭遇し、倒すとまず確定で魔石……燃料として需要のある物質が手に入り、個体によってはモンスタードロップが発生する。


 持ち帰ってきたアイテムによって市場を活性化させる探索者と言う職業は、英雄譚に繋がりやすく、ここ数年の数々の偉業は、ほぼ全て『魔法産業』に集中している。


 積み上げられたノウハウは、それを収集した国家によってまとめられ、より優れた探索者を輩出するための学校が創設された。


 探索科高校。そして探索科大学を優れた成績で卒業したエリート探索者が、ダンジョンで優れた結果を出す。というケースも多数報告され、『探索科学校』は、期待と重圧を背負う現場となった。


 周囲の人間が何を考えているのかを理解するには人生経験が足りない子供たちが、その期待と重圧を理解しているかはともかくとして。


 時代は、より優れた探索科学校に入学し、優秀な成績で卒業することが、『エリート』の、『成功者』の称号になりつつある。


「おい、見ろよ。アイツ槍水やりみずだろ」

「上下ジャージで、呑気にしてるな。俺達はこれからダンジョンに行くってのに」


 ダンジョンに入ってモンスターを倒し、魔石はアイテムを手に入れる。

 これが重要視するという事は、『実戦』の頻度が多いという事。


 多くの探索科学校は、授業が午前中のみで、午後はダンジョンに潜る時間となっている。


 その反面、国語や数学と言った一般科目の課題が存在しないため、どのように効率的にダンジョンに潜るのかに集中できるという事でもあるが、逆に言えば、ダンジョンで得られる成果がなければ『落ちこぼれ』扱いだ。


 そんな成果に追われる高校生活を送る『同年代』にとって、昼の十二時にボーっとした様子でコンビニに入り、呑気にしている姿はイラつくだろう。


「マジでムカつくよな。ライセンスだけは一丁前に持ってるけど、こんな平日にあんな様子じゃ、親の脛をかじってんだろ」

「クソじゃねえか。先生が何度言っても、高校に行かないって断固拒否。それが今ではあんな落ちこぼれ」

「チッ、見ていて腹立ってきた。行こうぜ」

「ああ」


 ボーっとしている少年を尻目に、これからダンジョンに行くという彼らは歩いていった。


「んー……」


 散々なことを、聞こえるように言われていた少年だが、特に表情を動かす様子もなく、黒髪をちょっと弄った後、商品をかごに入れた。

 そのままレジに向かう。


「お支払いは……」

「探索者カードで」

「はい。では、こちらに入力してください」


 探索者カード……プラスチック製で、『槍水飛鳥』の名前と、『E』の文字が刻まれたカードを取り出して入力する。


「あの、一ついいですか?」

「ん?」

「飛鳥さんが来るのは珍しいですね。今日は、早乙女さおとめさんは来ないんですか?」

「別のところに買い物に行ってるから、自分で買いに来ただけ」

「そうですか……」


 レジ打ちをしている少女は残念そうな顔になった。


「あ、すみません。ため息ついちゃって」

「いや、別にいいけど」

「そうですか。あと、さっきの……」

「ん? ああ、さっきの三人組か。中学の時にクラスメイトだったんだよ」

「へぇ……」

「三人とも親が金持ちでね。身体能力が上がるアクセサリーをジャラジャラつけて戦う『脳筋装飾』で有名だったね。今も変わらんらしいけど」

「脳筋装飾なんて初めて聞きましたよ……はぁ、またお待ちしております」

「ん、それじゃ」


 少年、槍水飛鳥やりみずあすかは、頷くと、レジ袋を手にコンビニから出ていく。


 ……で、道路を挟んで向かい側の一軒家に入っていった。

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