第7話【柚希SIDE】 学校の役割

「ふんふーん♪ さてと、今日はどうしましょう」


 ダンジョンの周囲は、基本的にそのダンジョンに挑むための環境と、そのダンジョンから得られるものを活用する環境が整っている。


 誰が何と言おうと、結局、ダンジョンから得られる資源はとてつもない戦略を秘めており、どんな企業も求めている。


「む~……む、おおおおっ!」


 柚希は赤いブレザーの制服姿……というより、基本的に探索者は学校の制服を着て過ごしていることが多い。


 自分がどの学校の生徒なのか。

 それを明らかにすると同時に、それで活躍することで教育現場の評価につながり、同時に宣伝になるからだ。


 何より、探索科学校の制服は、法律によって『そのままダンジョン探索に使える性能にすること』が義務付けられている。


 探索者と言うのは、ダンジョンに潜っているとき、いつ自分が救難信号を出す立場になるかわからない。

 ダンジョンの周囲にいる探索者に呼びかけるとして、一体誰が探索者なのかという目安になる。


 制服は、そのような緊急なケースに対しても対応できるように、ダンジョン探索で使える性能になっているのだ。


「むふふ~♪」


 嬉しそうに店から出てきた柚希は、レジ袋におにぎりをめっちゃ入れていた。


「おにぎりは美味しいですね。ん~……おや?」


 ダンジョンに近くなってきたときだった。


 柚希は、見知った顔を発見する。


「お、才華さん。これから探索ですか?」

「……柚希ちゃん。ええ、そうよ」


 青い制服を着た少女、諸星才華が、剣を腰につって、探索者用の雑貨店から出てきたところだった。


「柚希ちゃんは、今日は……」

「今日はオフです! ついでに、明日皆で遊ぶボドゲを買いに行く予定です」

「ボードゲーム?」

「そうですよ。赤色学園では、定期的にレクリエーションの時間があって、クラスの皆とボドゲで遊ぶんです」

「……その時間、鍛えたり、何かを調べたりしないの?」

「その時間は皆、ボドゲで遊びます。どうしてもダメな場合は帰れますけど、基本的には全員参加ですよ」

「一体どうなってるの。それ」

「皆で遊ぶことを強制して、無理矢理、強引に、生徒たちで繋がりを作るんですよ。たまに卒業生が来た時に、皆でボドゲの話で盛り上がったりしますし、とても楽しいです」

「でも、苦手な人とかいるんじゃない? 強引に参加させたら反対もあるんじゃ……」

「ありますけど、少しでも他の生徒と接点を作る。これが重要です」


 柚希は笑顔で言う。


「馬鹿であっても、無駄であっても、みんなと一緒に楽しく遊ぶ。この方針を決めて長いですからね。教師たちも、ボドゲが苦手な生徒をたぶらかして遊ばせるマニュアルは作ってますよ」

「……」

「強くなるだけなら、家に高ランクの探索者を呼んで教えてもらえばいいんです。学校ですから、『何があっても孤独じゃない』状況を『強引』に作る。まあ指導要領の問題で時間はカツカツですけどね」

「なら……」

「ストップ。これ以上、才華さんに言っても話は進みませんよ」


 手を出して話を遮った。


「それじゃあ、私はボドゲを買いに行くので、これで失礼しますね」


 ルンルン気分で、柚希は才華に背を向けて歩いていく。


「……いいなぁ。楽しそうで」


 小さな声で、静かに、ただ、間違いなく。

 才華の口から、そんな言葉が漏れた。


「!」


 才華の制服のポケットから着信音が鳴る。


「はい」

『諸星さん。どこにいますか? そろそろダンジョン配信の時間です』

「直ぐに向かいます」

『日々、戦う場所を前に前に進めていかないと、学校の評価に関わります。時間は惜しい。早く来てください』

「……はい」


 電話が一方的に切られた。


「……はぁ」


 戦い続ける少女の語彙力など、大したものはない。


 だからこそ……すごく、モヤモヤしてきた。


 柚希が、羨ましい。

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