第33話 リアリスター……作れちゃった!

「……ん~」


 飛鳥は基本的に、時間に追われない立場である。


 圧倒的な実力があり、ダンジョンから様々な物資を手に入れる場合、一回でとんでもない質と量になる。


 彼なりに世に出せるアイテムなのかを判断して、出せると思った場合は赤色グループに遠慮なく渡す。


 そこに躊躇がないため、アイテム一つとっても、研究の重要度が圧倒的だ。


 ……要するに。


 飛鳥という怪物とかかわりを持つ『研究所』という組織は、多少の解析困難なアイテムに直面する程度の『修羅場』くらいならいつも潜っているということだ。


「飛鳥様」

「どしたの~」


 飛鳥は紛れもなく、赤色グループで特別な存在だ。


 彼が立ち寄る可能性がある施設には、多くの場合、高品質なベッドと布団が用意された寝室があり、ノンアルのワインが大量に保管されている。


 赤色魔法研究所の中でも最上階に飛鳥の寝室が用意されており、八重はベッドでゴロゴロダラダラしている飛鳥に話しかける。


「回収した十個の最新式リアリスターですが、作れました」

「そうかぁ……リアリスターが……え、作れたの?」

「はい。作れたそうです」

「それはたまげたなぁ。だって、えげつないほどの研究が迷宮貴族で行われてたはずだろ? 50層のボスに挑む場合はあまりにも困難な性能をしてるわけで、それをもとに、改良に改良を加えて、70層まで行けるようにしてるんだし」

「赤色魔法研究所はあの程度のアイテムなら解析できるくらい修羅場はくぐっていますよ」

「修羅場……ああ、原因は俺か。まあそうなるわな。だって俺、ちまたでは『天変地異ディザスター』とか呼ばれてるんだろ?」

「忘れてました」

「素直でよろしい。で、作ってみた感想とかは、みんななんて言ってた?」

「拍子抜け。と言っていました」

「あらら……」


 まず間違いないのは、70層に挑めるアイテムというのは、紛れもなく強いということだ。


 もちろん、それ相応の魔力量を要求されるのは間違いない。


 ポンコツ長男の松垣隆吾に関しても、迷宮貴族の五つ星というだけあって、魔力量は相当なものだ。


 それに合わせて作られているのは間違いないが、人外レベルのアイテムを作れるという意味で、圧倒的だ。


「ダンジョンというのは、探索だけでなく、研究に関しても、50層を超えると人外レベルの頭脳を求められます。まだ、名前すらついていない理論をいくつも必要としますから」

「そうだな」

「そういう意味で、70層に挑める鎧はどんなものかと分析した結果、『なーんかできそう』ということでやってみたらできました。この研究所の経験値はとても高かったという話でも構いませんが……」

「が?」

「道具に込められた『思想』が、明らかに戦うための道具ではない。という話でしたね」

「あー……外部のスイッチ一つで、鎧の性能のオンオフを切り替えられるシステムが組み込まれてるもんな」

「はい」


 あくまでも『管理』したいのだ。


 暴力とは絶対的なもので、それを制御できるようにしないと、反乱を恐れて眠れない。


 そのため、スイッチ一つ……以外にも、様々な『外部からの干渉を受けて、停止するシステム』が組み込まれている。


「しかも、いつ、どんなタイミングでも反旗を翻した際にそれを停止できるように、様々なシステムに介入する形で管理システムが埋め込まれています。何と言いますか、攻撃するたびに、いちいち『許可』を出しているような、そんな構造になっているそうです」

「夢を見る資格をなくした後は、権力者に管理され、戦いの結末が年寄りの好き嫌いで決まるようになると……これを考えた奴の皮肉のセンスはやっぱおかしいわ」

「私も思います」

「……あとさ、話を聞いててすっごく重要なことに気が付いた」

「なんでしょう」

「その『停止システム』だけどさ……作れるよね」

「もちろんです」


 そう、リアリスターに組み込まれた停止システムだが、『リアリスターの再現に成功した』ということは、言い換えれば『停止信号も解析できた』ということだ。


「てことは、相手がリアリスターで挑んできたときは、ただの重い鉄の塊になるわけか。俺が迷宮貴族ならやってられんよ」

「私もいやです」


 飛鳥と普段からかかわっているということもあるが。


 赤色魔法研究所もまた、十分に化け物である。


 ……ちなみに、所長は望海である。

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