第4話 飛鳥の強さ
エネモンナ洞窟の三十五層。
柚希が生配信を終えた後、飛鳥は一緒にダンジョンの中を歩いている。
「おっ、ゴブリンはっけ――」
胸にナイフが突き刺さっていた。
なお、鉄製の鎧を着こんでおり、この階層の中でも上位の個体である。
三十五層は探索者でBランクであり、『上級』と扱われる強さを持つ者が挑む階層である。
当然、鎧もただの鉄ではない。
しかし、飛鳥には関係なかった。
「あ……」
ゴブリンはばたっと倒れて、魔石をドロップアイテムを残して、塵となって消えていった。
「おっ! あのアイテム、凄いレアドロップですよ!」
柚希は魔石とドロップアイテム……金の腕輪を拾った。
「えーと……『撤退の腕輪』ですね。モンスターに背を向けて逃げる時に、モンスターの戦闘意欲をかなり低下させる効果があります。しかも格上にも有効ですよ!」
ダンジョンに出てくるモンスターは、侵入者を排除するために出てくる。
探索者を見つけた場合、探索者の方が強かろうと弱かろうと、躊躇なく襲い掛かってくるのだ。
だが、この腕輪をつけていると、逃走の成功率が格段に上がるのだ。
探索者は命をかけているが、自殺志願者ではない。
リスクを下げることができるアイテムは、かなり高額だ。
「えーと……さ、300万!? 相場が300万って書かれてますよ!?」
日本政府が作ったアプリ『ドリームボード』は、探索者にとって最強の情報ツールでもある。
アイテム名で検索すれば、それが出てくると同時に、相場がいくらなのか、またはそれを求める依頼があるのかを確認できるのだ。
「まあ、それくらいはするだろうね」
「こんなレアドロップ。本当に運が良いですね! 赤色グループの保管庫に突っ込みましょう!」
探索者は企業がスポンサーについている場合がある。
柚希の母親が経営している『赤色グループ』は、グループで運営している『赤色学園』の在校生、卒業生のスポンサーでもある。
魔石に関しては日本全体で消費されるものであり、備蓄はいくらあっても困らないため『政府に提出』となっているが、ドロップアイテムに関しては企業の保管庫に放り投げても問題ない制度になっている。
「まあ、いずれ、これくらいのアイテムがホイホイ手に入るようになるさ」
「飛鳥さんって強いですよね。いったい、どれくらいの階層まで潜れるんですか?」
「ラスボスを倒したこともあるよ」
「ええええええええ~~~っ! それは初めて聞きましたよ!」
「そうだったかな」
「深いところまで行けるのはお母さんから聞いてましたよ。ただ、ラスボスを倒せるなんて、すごいです!」
ダンジョンは全て100層構造であり、人外と称されるSランクが51から60層に潜っている。
人外が潜るのが51以降という事は、普通の人間の限界値は50であり、ダンジョンにとっては折り返し地点でしかない。
そんな中、『ラスボスを倒せる』というのは、紛れもなく、圧倒的な戦闘力だ。
「まぁ、全てのダンジョンには『転移の柱』が各層に備わってるからな。この親切設計がなかったら、流石に挑もうとは思わなかったけどな」
「むむむぅ……む? そこで手に入れたアイテムはどうしてるんですか?」
「赤色グループの本社地下の保管庫に入れてるよ」
「なるほど、お母さんがそれらをどう使うのかを考えているてことですね」
「そうなるね」
「例えばどんなアイテムがあるんですか?」
「凄く高性能の『拠点要素』を付与できるアイテムとかかな」
「拠点?」
柚希は首を傾げた。
「これによって、パソコンやスマホは外からのハッキングの被害にあわないし、遠くからの分析魔法も全て遮断。上階層に実弾をライフルでぶち込んでも傷一つつかないよ」
「すごいです!」
「オマケに、そのアイテムを使っていることがバレることもほぼないんだよね。魔法省から『防御性能おかしいだろ』って言われてるけど、『特別な建材を使っています』ってはぐらかしてるみたい」
「おおっ……本社には私とお母さんが住む場所がありますし、私の安全は実質的に飛鳥さんのおかげってことですね! ありがとうございます!」
「まあこれくらいはな」
飛鳥は頷く。
で、ゴブリンが出てきたのでコンマ1秒で倒した。
「なんだかモンスターがかわいそうですね」
「実力差があるとどうもね……別に見栄えを気にする必要もないし」
というわけで、さらに、魔石とアイテムを回収。
「えーと、こ、これ、『
「それくらいのアイテムなら、保管庫には溢れてるよ」
「……なんでこんなに、レアドロップが出るんですか?」
「出るように倒してるから」
「そんなことできるんですか!?」
「出来る。まあ、モンスターとの間に、相当な力量差が必要になるけど」
「なるほどぉ……」
「ちなみに、挑める最高階層が45層の柚希だと、1層の相手に対しても使えないと思ってくれていい」
「ムッズ!」
45層離れていても不可能な力量差が必要になる。
それが事実であるとして、35層のモンスターに対してそれを可能とする飛鳥は、いったいどれほど強いのだろうか。
「飛鳥さんって……もしかしてラスボスを簡単に倒せるんですか?」
「手段としての全力は必要だけど、気分として本気になる必要はないかな」
「おおっ……」
もう……もはや……柚希にはよくわからない!
もともと考えるのは得意じゃないけど!
「さてと、そろそろ俺も戻ろうかな」
「おおっ! なら私も帰りましょう。確か転移の柱がある安全エリアはあっちですね。うっほほーい!」
笑顔で柚希が走り出した。
……その数秒後、飛鳥のジャージのポケットから着信音が。
「……どうした?
『あー、飛鳥さん。ちょっと早めに帰ってきてください』
コンビニでレジ打ちをしていた女の子の声が聞こえてきた。
「何かあったのか?」
『アイテムボックスへの格納を受け付けない『自爆装置』が、八重さんが持ち帰ってきた暗部の人たちに埋め込まれてます。しかも、本人たちが知らないうちに』
「……なるほど、そいつら、政府は政府でも、『迷宮貴族』の関係者だったのか。本人が知らん間に自爆装置とはまた行儀がいい」
『え、行儀がいいですか? これで?』
「まあそれはそれ。で、八重は?」
実際に連れて帰ったのは八重だ。
望海が電話をかけてきたという事は、八重は自身に出来る方法で何とかしようとしているが、出来ないから飛鳥に電話を任せたという事だろう。
となれば、八重は何かの作業中のはず。
『自爆装置を解除しようと頑張ってますけど、プロテクトが凶悪で……』
「それ、どこでやってるんだ?」
『飛鳥さん
「窓開けろ」
『え、外に影響を出さないようにって、八重さんから言われて閉めてるんですが』
「いいからいいから」
話を聞きながら、飛鳥は右手の傍に『渦』を出現させると、手を入れて、一個のボールを取り出す。
それを地面に軽く投げると、勢いよく跳ね返って手に戻ってきた。
どうやらスーパーボールのようである。跳ね方から、素材は特殊のようだが。
『開けましたよ』
次の瞬間、飛鳥はスーパーボールをぶん投げる。
素材の特殊性ゆえか、跳ね返る際は無音であり、もはや人間には認識できない速度。
『あの、飛鳥さん。八重さんがちょっとこっちを睨んでうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』
「どうなった?」
『……制御装置に何かが衝突して破壊されました。八重さんの推測だと、制御装置が壊れると爆発するはずですけど、そっちも無力化されてるみたいで、沈黙してます』
「わかった。じゃあ、俺はゆっくり帰るから、また何かあったら言ってくれ」
『……化け物め』
そういって、望海は電話を切った。
「何を今さら」
暴言を軽く聞き流して、飛鳥は歩き始めた。
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