第36話 軍事ヘリが飛んできたので撃墜します。

 超強力な認識阻害結界。


 その性能は端的に言えば、『周囲のすべてが、認識阻害エリアを無視する』というのが一番わかりやすい説明になるだろう。


 人間の意識だけでなく、魔法や電波も同様である。


 いろいろなパターンはあるが、大規模になればなるほど制御も難しいため、『電子機器は例外』などといった要素を加えようとすると途端に消費魔力が多くなる。


 そのため、『一切合切遮断するから、短期決戦で勝負を決めろ』ということになる。


 そして、この手の認識阻害は電波を遮断するゆえに、内部からはすべてが圏外となる。


「飛鳥様! スマホが『本来なら圏外』と表示されました!」


 研究所の飛鳥の寝室にて。


 八重が飛び込んできて、スマホを手に報告する。


「……相手のコストのかけ方に敬意を表するべきなのか。それを上回る魔法技術を詰め込んだスマホを開発してたことにあきれるべきなのか。どっちなんだろうなぁ」


 ベッドから降りて、大きく伸びをする飛鳥。


 そう、八重は『本来なら圏外』といった。


 要するに、まだ電波はつながっているのだ。


 強烈な、一切合切を遮断する結界を相手が使ったというのに、スマホは平常運転である。


「いざという時に連絡が取れない状態になる可能性があるのは『守れる』とは言えないため、赤色グループで作っているスマホは、ダンジョンの深い階層の素材で作った特注品だと聞いていますが?」

「あー、確かそんな話だったな」

「頭、回っていますか?」

「えー……」


 飛鳥は近くにある『大き目のスキットル』を手に取って、ワインを一気に飲んだ。


「ふぅ! すっきり!」

「……飛鳥様にとって、ノンアルワインって、なんなんですか?」

「エネルギーと脳の活性化の源だな。俺の体って、たんぱく質をとってなくても、ワインさえあれば、細く鍛えられたしなやかな筋肉になるし、難しいことを考える場合は飲む方がいい」

「そんなに大量に飲んで平常運転に見えますが、なんだか燃費の悪い体ですね」

「大量に飲んでも許されるくらい強いし、生産体制を整えてるからな」

「……」


 八重はメイドである。


 自宅ならば家事は大体八重がやるわけだが、料理に関しては一応、ワインに合うものを選んでいる。


 とはいえ、それを必要とはしないが、『食べたらうまいと思える味覚を持っている』ため食べているだけ。


 肉を食べなくても普通に筋肉がついているため、便利な体だとは思いつつ、なんだかこう……。


「飛鳥様って人間ですか?」

「言いたいことはわかるが、まぁ、ダンジョンのラスボスを倒せるくらいに強くなると、体の中の何かが普通の人間と比べて欠落してるなーって自覚するもんだよ」

「欠落……何かを必要としないことは、進化ではないのですか?」

「俺の中では欠落といったほうがしっくりくるかな」

「そう……ですか」


 何かを必要としないことは、進化ではなく欠落である。


 飛鳥の中ではそういうことらしいが、欠落と呼ぶということは、『普通にいろんなものを食べているほうが健全』ということらしい。


「さてと……なぁ、迷宮貴族って、あんなの持ってるんだな」

「あんなの……えっ?」


 窓から見える景色。


 そこには……大型の軍事ヘリが飛んでいる。


 いろんな場所に機関銃を始めとした武器が搭載されており、全長百メートルはありそうな、文字通りの怪物だ。


「なんですかあれは……」

「軍事ヘリって感じがする見た目してるな。全長は百メートルってところか。なんだっけ、どこかの国が作ってた全長四十メートルくらいの軍事ヘリが、確か80人から100人くらい乗れるって話だったけど、それの2.5倍って考えると、凄いなぁ」

「中に何人入っているのですか?」

「戦闘員は百人だな。制圧した後に職員を捕縛したり、物を回収するためにスペースを空けてるってことなのかね?」

「物の回収は『異空間収納アイテムボックス』でいいと思いますが……」

「それは八重の感覚がマヒしてるな。俺が『空間異常型ダンジョン』のラスボスを倒して持ち帰ったアイテムをもとに、赤色グループでは普通に使われてるから、それに常識が引っ張られてるぞ」

「失礼しました」


 飛鳥はどうしたものかなー。と考えているようだ。


「……とりあえず撃墜するか。研究所の地下はまだまだ牢屋がたくさんあるし」

「疑問なのですが、なぜ研究所の地下にこれほど牢屋があるのですか?」

「それは会長に聞いてくれ。俺は知らん」

「わかりました」


 というわけで、飛鳥は窓から飛び出すと、そのまま空気を蹴って屋上に立つ。


 八重も窓から飛び出て、屋上に上がった。


「さてと……」


 飛鳥が右手を掲げると、そこに一本の槍が出現する。


 荘厳で、神々しい光を放つ槍。


 それを手に、引き絞るように構える。


「……え、粉々にするのですか?」

「こっちも遠慮がないってことを教えてやらないとな。中にいる全員がリアリスター

をつけてることは見えてる。落下で怪我はしない」

「……遠慮しないのは裏切者であって、敵には配慮するのではなかったのですか?」

「それはこれ、これはそれだ」

「割と思想がぐちゃぐちゃということでよろしいでしょうか」

「構わんぞ。というわけで……おらっ!」


 飛鳥は槍を解き放つ。


 一直線にヘリに向かって飛んでいき、正面からたやすく貫通して、後ろから出てきた。


 次の瞬間、燃料タンクが不備が出たようで……。


「あ、八重、耳塞いでおいて」

「はぁ」


 二人が耳に手を当てると……。



 ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!



 強烈な爆発音が鳴り響き、ヘリが落ちていく。


「んー。あのあたりなら広いしやりやすいだろ」

「まさに悪魔の所業ですね」

「だろ?」


 なんの悪びれもなくそういった。


 で、また墜落した音で強烈な音が鳴り響いて、ヘリは大破。そのまま炎上している。


 もう二度と使えないというか、ヘリに乗ると恐怖症が発生しそうな勢いでえげつない結果になった。


「兵士たちが悲鳴を上げながら出てきてますね」

「あの高さから落下してもほとんどケガしてねえし、燃え上がったヘリの中にいても火傷しないか。まぁ、60層以上に挑めるってことは『人外性能』だし、それくらいは不思議でもないか」

「不思議ではありませんが不憫ですね」

「まぁとりあえず、捕まえに行ってくる」

「行ってらっしゃいませ。私は百人分の牢屋を準備しておきます」


 というわけで、飛鳥は兵士たちのもとに行き、八重は地下に向かった。

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