第37話 格の差
全長百メートルの巨大ヘリコプターを、グングニルで撃沈させた飛鳥。
広い場所に落ちたため、『とりあえず捕まえに行くか』ということで、研究所の屋上から飛び降りて、空気を蹴りながら彼らの近くに着地した。
「遠路はるばるお疲れさん。で、気分はどうかな?」
「「「「「お前には血も涙もねえのか!」」」」」
「襲撃者が何を言ってるのかって話だけど、まあ割と、ごもっともだな。うん」
襲撃を受けている側であっても、やっていいことと悪いことがある。
例えば、部屋の中で爆発物を使うとか。
これはさすがに、襲撃を受けている側としてもアウトだ。
そういった形で、『状況を選べよ!』と突っ込まれる手段というのは存在するのだ。
ヘリコプターを一撃で葬り去るのも、一応これに該当する。
「さて、とりあえず君たちの目的は、松垣隆吾と十人の兵隊。あと合計十一個のリアリスターを取り返すってことでいいのかな?」
「それだけじゃねえに決まってんだろ」
「持ち帰るためのヘリがそんなことになってるのに持ち帰るなんてことできるのか?」
「お前がやったんだろうが!」
あれほどデカいヘリコプターを用意している以上、奪われたものを取り返すだけではなく、いろいろ奪って帰るつもりだろう。
ただ、撃沈してしまったのでそれはかなわない。
「まぁ、それはそうだな。ところで……降伏勧告でもしておこうか? 全員、装備を解除して、両手を上げて待機してくれ」
「ふざけんな! こっちは百人いるんだ。お前がどれほど強かろうと、たった一人だぞ!」
全員が大型の銃を構えた。
「何言ってんだか、研究所だぞ? 襲撃から守るためにいろんなシステムがあるはずなのに、『俺しか出てきてない』ってことが、『俺以外は必要ない』ってことだとわからんのか?」
「黙れ! おい、集中砲火だ!」
全員が引き金を引く。
銃弾が一斉に、飛鳥に向か……わない。
飛鳥がポケットからスマホを取り出して何かのアプリを立ち上げると、うんともすんとも言わなくなった。
「な……なんだ?」
「すでに、リアリスターの構造は完璧に理解してる。その装備は反逆防止のために、外部から機能を停止させるためのシステムが組み込まれていてな。俺が今、このスマホで使ったアプリには、そのシステムと同じものが使われてる」
「な……嘘だろ!?」
嘘だとなんだとわめき始めているが……。
彼らは急に、膝をついた。
「ぐおっ、り、リアリスターが、重い……」
「頑丈な鎧だが、普段は重量を軽減する魔法が同時に使われてる。魔力の消費量は多くなるが、素質があるやつばっかり選んで兵隊にしてるんだから、それくらいは気にしないよな」
「ぐっ……」
「というわけで、お前たちはその装備を自分で解除することもできない。俺のアプリを使えば、『装備を解除する機能を強制的に実行する』ことも可能だ」
「そ、そんな馬鹿な。これほどの技術を、迷宮貴族じゃないのに持っているはずがない!」
「何言ってんだ? ダンジョンは多種多様。そして奥に行けばとんでもないアイテムも手に入る。奥に行けば電子機器を強化するアイテムが出てくるダンジョンが存在しないだなんて思ってないだろうな」
どんなダンジョンも百層構造。
手前は弱く、人間にとって本来の限界層は50層。
そして100層はラスボスであり、これを倒すことができたなら、文字通りとんでもないアイテムが手に入る。
そしてダンジョンは多種多様だ。
いくつかカテゴリとして各分類ごとに当てはめることはできても、全く同じダンジョンはない。
そして、中には電子機器にかかわるダンジョンだってある。
そして飛鳥は、そんなダンジョンのラスボスを倒せる。
人間社会のバランスを完全に無視した報酬を、すでに手にしているのだ。
「というわけで、重い鎧を着たまま、鈍器にしかならない銃だけで戦ってみるか?」
無茶もいいところだ。
最悪でしかない。
「ぐ、くそ……」
その時。
兵隊たちと飛鳥の間に、一台のハイヤーが入ってきた。
助手席から、一人の青年が降りてくる。
「おいおい、やっぱり一人相手にクソみたいな展開になってんじゃねえか」
「……お前は?」
「俺様は金沢真琴。まあ端的に言えば、松垣家の切り札ってところだ」
「切り札ねぇ……」
突如現れた、古典的なチャラ男といった雰囲気の青年だ。
飛鳥はいぶかしげな表情で彼を見て……。
「まあいずれにしても、75層で戦える『万全の』お前と戦おうとは思わねえよ」
「ん?」
真琴が右手を飛鳥に向けて掲げる。
「つーわけで、スキル発動!」
何か、音波というか……波を感じる何かが、真琴の手から放たれる。
それが、飛鳥に当たり始めた。
「ククク。俺のスキルは『不協和音』……相手のスキルを無力化し、相手のスキルが強ければ強いほど、体調や戦闘力に悪影響を与える。徹底的に、『スキルを狂わせるスキル』なのさ」
「……」
75層のモンスターを倒した動画が出回っている飛鳥の前に出てきたことも含めて、『格上殺し』といえるスキルだ。
そもそも、普通の人間の限界は50層であり、それを超えるとなれば、いずれにせよスキルが必要になってくるというのが飛鳥の判断基準。
これに加えて、41層から50層に潜るAランクであっても、若い探索者ならばスキルを使っていることも多い。
あまりにも、『誘拐』に適している。
迷宮貴族の五つ星が切り札と呼ぶのは、確かにわかる話だ。
わかる話だが……。
「お前がぶっ倒れた後に、そのスマホをぶっ壊せば、俺たちのリアリスターも復活するだろ。つーわけで……って、あれ、なんで倒れないんだよ。お前」
「なんでだと思う?」
「お、お前のスキルは、オーディンか何か、とんでもねえ力を持ってるはずだ。そんなお前が、俺のスキルで平然と立ってるなんて、あり得ねぇ」
「……」
飛鳥はため息をついた。
「お前のスキルの名前は知らんけど、そのスキルの本当の力は、相手が持っているスキルの中で、相手が認識できていない力、制御できていない部分に異常を引き起こすものだ」
「はっ?」
「それそのものに、スキルの無力化や、相手の体調と戦闘力をいじる力はない。ただ『結果的にそうなる』というだけ」
「お前、何を言ってんだよ」
「端的に言うと……」
飛鳥は、『拍子抜け』といった様子で真琴を見る。
「自分のスキルを完全に制御してる俺に、お前のスキルは通用しない」
「う、嘘だろ。そんな馬鹿な!」
スキルにどれほどの自信があったのか、うろたえ方だけでわかるものだ。
圧倒的な『相手を狂わせるスキル』によって、どんな格上も沈めてきた。とらえてきた。
それそのものは確かに強い力だが……。
「そんなことがあり得るはずがねぇ。俺様のスキルは、どんな強者だって……」
「いや、単純に、格の差だろ。これまでお前が相手してきたやつは、お前と大して格が変わらなかっただけだ」
ふああ、と欠伸をする飛鳥。
「スキルを受けてみればわかる。探索者として鍛えてはいないだろうが、素質はある。その素質とスキルだけで、これまで強い奴をとらえてきた。それはすごいが、まあ凄いだけだ。俺の相手じゃない」
飛鳥は、ハイヤーを見る。
助手席から出てきた真琴だが、まだ、運転席に、誰かがいる。
「さて、残るのは、それの運転席に座ってる人だけかな? 君を無力化したら、俺の勝ちだ」
中卒探索者のスローライフ ~基本はダラダラですが、時にダンジョンでグングニルをぶん投げます~ レルクス @Rerux
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