第30話 飛鳥次第

 門を突破しようと、鎧を身に着けて次々と遠距離攻撃を叩き込んでくる兵隊たち。


 その攻撃はなかなかに苛烈であり、単騎で70層に到達できるであろうその性能は、紛れもなく『強い』といって過言ではない。


 そして、こんな街中で撃ちまくっているのに、周囲の人間は気にする様子がない。


 おそらく研究所に用事があってやってきた人物であっても、『今はいいか』と避けて通っているかのような……端的に言えば『認識阻害』が機能している。


 そんな門の傍にきて、飛鳥はひょいっとジャンプ。


 門の上に出ると、彼の手の傍に、カラスの羽を模したナイフが多数出現。

 腕を振って投げると、兵隊たちが持っている銃型のガジェットに命中して、すべて機能が停止する。


「なっ!?」

「い、いきなり動かない」

「何が起こった!」


 あまりにも一瞬の出来事で、困惑を隠せない様子。


 そんな場所で、飛鳥は地面に着地した。


「はい。迷宮貴族の兵隊さんたち。お疲れ様」

「お前は、槍水飛鳥か!」

「なぜここにいる!」


 さすがに情報は持っている様子。

 飛鳥が急に現れて驚いているようだが……。


「そりゃぁ。迷宮貴族で五つ星の長男と、そいつが持ってた装備を確保したんだ。研究所にぶち込んだんだし、そこにくるに決まってるよ」

「チッ、もっと後で来ると思っていたが……」

「ベッドでダラダラしていることが多いという情報はあった。が、例外もあるということか」

「めんどくせぇ」


 飛鳥についてある程度調べているのか、圧倒的な強さの反面、家のベッドでゴロゴロしていることが多いことも知っている様子。


 いずれにせよ、ここにきている兵隊たちは、飛鳥に対して油断する気はないらしい。


「……一つ、提案しようか」

「提案だと?」

「松垣隆吾を返すから、君たちは帰ってくれない?」

「「「「「ふざけるな! 弟ならともかく、アイツはいらん!」」」」」

「おおっ……しっかり有能な人間は評価されてるんだな。関心関心」


 弟の松垣敦也に関しては、迷宮貴族の中でもまだ倫理観がきっちりした部署の中で有能なのだろう。


 そこのところはしっかり評価しつつ、『隆吾はいらん』ということらしい。


「でまぁ……とりあえず、お前たち全員をとらえて、その装備についても研究させてもらおうかと思っている」

「チッ……」

「あ、そうそう、別にお前たちの装備を回収したところで、うちの『戦闘力』が底上げされるわけじゃないのは重々承知だ。あんたらの装備で一番深いところは70くらいだろうけど、俺はもっと深いところでダンジョン産の装備をとれるからな」

「なら、何のために……」

「迷宮貴族の目的の全貌を解き明かすためだ。戦闘力的に、あんたらが俺の敵として十分な戦力を持っているかは知らん。ただ邪魔なんだよ」


 飛鳥の手に、カラスの羽ナイフがいくつも出現。


「兵隊に重要な情報を与えるのか。与えないのか。あんたらを確保した後の自白剤の使い甲斐もある。装備を研究すれば、あんたたちが『使う資格を失った特別な装備』のこともよくわかるだろう」

「チッ……」

「もうそこまでたどり着いているのか」

「だが、隆吾とリアリスターは回収しなければならない。これは絶対だ」


 一応、任務は遂行しなければならない。ということなのだろう。


 70層までしか潜れない装備なのに、75層のモンスターを一撃で倒す飛鳥を前にして、一歩も『撤退』の文字がない。


 逃げることが許されない環境にいた。という解釈もできるが、それはそれだ。


「さてと、まあ公的機関が使えないし、もうちょっとダラダラ話してもいいんだがな」


 スマホを取り出して、近くの警察署の番号で電話をかける。

 しかし……。


『おかけになった電話番号の通報は現在受け付けておりません』


 といった電子音声が返ってきた。


「というわけで、俺がどうするのかの話だ。事実を言えば、あんたら全員を捕獲することができる実力を持ってるやつを、常に配備するほど人材豊富でもないんでね。制圧の方法も俺次第だ」

「……我々をどうするつもりだ」

「そうだなぁ……」


 うーん……と考えた後。


「地面に伏したい奴からかかってこい。伏したくないやつは諦めてくれ」

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